一流に学ぶ 天皇陛下の執刀医―天野篤氏

(最終回) 過去より未来、高み目指す =多忙や病気も前向きに

 今が医師としての人生の分岐点という自覚もある。「今後3年間は今のペースでいけると思っています。病院長になって自分はもうそれでいいと、お山の大将になったら、その先は閉ざされる。僕はもっといろいろな人と出会ったり、さまざまな場に出向いて良いものを吸収したい。そこからインスパイアされて次のやる気、ステージが見えてくるのだと思います」
 不整脈の一種、心房細動を先日経験した。脳梗塞のリスク要因になる病気を自ら発症してしまったのだ。「医者は専門領域の病気になると言うじゃないですか。何となく胸が重いと思って、脈を取ったら乱れているのが分かって。『わー! 来てるぞ』と慌てました」
 天野氏は9年前、橋本病(慢性甲状腺炎)を発症し、甲状腺機能亢進(こうしん)状態から心房細動を起こしたことがあった。薬物療法で症状は治まったが、その後油断して経過観察を怠った。治療せずに放置すると、心臓に血栓ができ脳の太い血管に詰まる心原性脳塞栓症を起こす恐れがあることも当然知っていた。医者の不養生である。

 「慢性化したら1日3件できる手術も2件しかできなくなっちゃうかななどと、行動が制限されることを
想像しては、そんなことあるはずがないと自分の中で否定していました。今は定期的に採血して不整脈の薬の量も調節してもらいながら、うまく付き合っています」と自嘲気味に話す。
 2年前には3回目の尿管結石を発症し、体外衝撃波で破砕。以来、酒を断った。「特に好きでもないですが、酒も関与しているだろうと思って。それに、年を取ってから気分良く飲んだ翌日は身体が重かった。しばらくやめてみたら、長い手術でも体が意外に軽く動きました」
 天野氏の心にぴったりくるのが、NHKの朝ドラ主題歌にもなった女性アイドルグループAKB48の「365日の紙飛行機」だ。
 〈人生は紙飛行機 願い乗せて飛んで行くよ 風の中を力の限り ただ進むだけ その距離を競うより どう飛んだか どこを飛んだのか それが一番 大切なんだ さあ 心のままに 365日〉
 「カラオケでよく歌いますが、あの曲がいかにも自分のありようを示してくれていると思って一生懸命覚えました」と笑う。人生を振り返るより、将来に向かう歌に共感する天野氏。これから、どんなふうに飛んでいくのだろうか。

(ジャーナリスト・中山あゆみ)



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