Dr.純子のメディカルサロン

「清潔意識の違い」がストレス、やがて家庭はぎくしゃく 第49回

 新型コロナウイルス感染拡大後、家庭内でトラブルの要因になっている一つが「清潔意識の違い」です。

 ウイルス感染への不安や手洗い、外出自粛など、予防行動の違いがストレスになり、人間関係を悪化させたりするケースの相談が最近、多くなって気になります。

 【ケース1】20代半ば女性Aさん

 在宅で仕事をしているAさんは最近、疲労感が強いということです。その要因は、在宅勤務そのものではなく、姉が1カ月だけ、勤務の関係で、会社に近いAさんの部屋に同居することになり、そのことがストレスになっているのでした。

 Aさんは在宅で、姉は通勤です。Aさんは、姉が外出から帰った時の手洗いなどが不完全に思えて、気になってしまうのです。

 Aさんは、帰ったら、靴の裏までアルコールを吹きかけるくらいの徹底した予防策をしているので、姉との清潔に対する意識にかなりの差があることが、ストレス要因になっているのです。

 【ケース2】30代主婦Bさん

 Bさんは、緊急事態宣言解除後も、夫が週2回、在宅勤務になり、夫の日常のコロナ対策の行動が気になっています。

 トイレの後の手洗いが不十分。パソコンを操作しながら、鼻を触ったりする。頭をかいた後、冷蔵庫の扉を開ける。こうした姿を見ていて、不潔で気分が悪くなり、夫が不潔に見えてしまうということです。

緊急事態宣言は解除されたけれど…=2020年5月15日 、名古屋市中村区の名古屋駅付近【時事通信社】(写真は本文と直接関係ありません)

緊急事態宣言は解除されたけれど…=2020年5月15日 、名古屋市中村区の名古屋駅付近【時事通信社】(写真は本文と直接関係ありません)

 「もう少し配慮をしてほしい」と思いながら、いちいち指摘しても、「うるさいと思われるのでは」と、我慢をしているそうですが、そろそろ限界になっています。

 【ケース3】30代半ば男性Cさん

 Cさんは通勤と出社が必要な業種に勤務していますが、70代の両親から「感染が怖いから家に帰らないでくれ」と言われて、この2カ月間、月決めのマンションで暮らしています。

 両親は、感染への不安感が強いそうで、Cさんは「仕方がない」と思いながら、その生活を続けているものの、いつになったら家に戻れるのか、このところ心配になりだしています。

 【ケース4】70代男性Dさん

 Dさんは退職後、ボランティアや自分で主宰するコミュニティ活動を積極的にしてきました。しかし、同年代の妻は感染への不安感が強く、特に、外出に対して危機感を持っています。

 このため、Dさんが外出しようとすると、「私を病気にする気なの?」と非難し、Dさんは外出ができないと言います。

 Dさんも「仕事でもないのに、出かけるのは、気が引ける」と言いながら、緊急事態宣言が解除されても、家のアラートが継続中ということで、ストレスになっています。

 ◆個人の清潔意識はまちまち

 以上のように、各年代で家族内の清潔意識の違いや、予防行動に対する意識の差が、家庭内のコミュニケーションギャップを生んでいます。

 その多くの場合は、妻が夫の清潔意識に対して不満が生まれる場合が多いようです。普段、子育てや料理で衛生状態に配慮する機会が多い女性の方が、清潔に対して意識が高いことがあるのかもしれません。

 在宅勤務で家事を手伝う男性もいますが、妻の求める清潔度の基準に達していないために、逆に非難されて、トラブルになることもあります。

 夫は「せっかく手伝いをしているのに、いちいち文句を言うから、もう手伝わない」と怒ったりして、夫婦間の人間関係悪化の要因にもなるのが、清潔意識の違いです。

 女性同士でも、清潔に対する個人差がありますから、Aさんのように、急に同居することになったような場合は、これまで目を向けなかった、お互いのギャップに気が付いて、ストレスになります。

 こうした清潔意識の違いは、ウイルス感染という生命のリスクが背景にあるので、ストレスを強く感じるのだと思われます。

 ◆具体的な対策は

 〔最低限の「守れるルール」を話し合う〕 

 清潔意識については、これまで家庭内でほとんど話し合ったことがない人が多いと思います。ウイルス感染に関して、具体的に手洗いや外出頻度など、守れる範囲で最低限必要な行動を詳細に取り決めることが必要です。この時、お互いの清潔意識を知っておくことが大事です。

 〔ルールはなるべく具体的に〕

 清潔意識の違いは、具体的に明確にしておく必要があります。意識の違いは、微妙なところから生じているからです。

 例えば、外出後やトイレの後の手洗い一つにしても、それが必要なことは誰しも知っています。しかし、水をつけて数秒流すのを手洗いとしている人もいれば、せっけんをつけて、もみ洗いし、20秒ほど流水で流すのを手洗いの習慣にしている人もいます。

 家族内で大きな違いがある場合は、「最低、このくらいは手洗いしよう」と決めておくことで、ストレスを軽減できます。外出に関しても、一方的に我慢するのではなく、お互い、許せる範囲の時間や頻度について、具体的に話し合うことが必要です。

 〔意識の違いを放置しない〕

 家族内の清潔意識の違いについて、我慢をしていると、心の中に鬱憤(うっぷん)がたまり、ごくささいなことで感情が爆発し、家族間の大きなトラブルに発展する危険があります。

 これまで、何となく雰囲気で感じてきた、お互いの意識について、再確認することが、家族危機に対する予防線になりそうです。

(文 海原純子)


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