治療・予防

全国規模で緊急事態宣言を
~コロナ、危機感強める専門家~

 変異株により新型コロナウイルスの感染者が急増している大阪府の吉村洋文知事は19日、特別措置法に基づく緊急事態宣言の発令を政府に要請する考えを明らかにした。関西2府1県に続き、東京都や宮城県、神奈川県などにも、緊急事態宣言に準じる「まん延防止等特別措置」が適用されているが、人出が減る兆候はない。専門家は「現状は、既に『感染第4波』と呼べる。全国規模で緊急事態宣言を発する段階だ」と警鐘を鳴らしている。

午後8時をすぎたJR新橋駅近くの公園で、飲食をする人たち=16日、東京都港区

午後8時をすぎたJR新橋駅近くの公園で、飲食をする人たち=16日、東京都港区

 ◇「都市封鎖」並みの対策も

 「関西に続き、関東でも流行の主流は『英国株』と呼ばれている感染力の強い変異株に移りつつあり、この傾向は今後も続くだろう。この流行を抑え込むには、大都市部で外出禁止を含む欧米の『ロックダウン(都市封鎖)』に等しいような厳しい行動規制を取りながら、ワクチン接種の普及を待つしかないだろう」

 感染症に詳しく、世界保健機関(WHO)のインフルエンザ対策委員も務める菅谷憲夫・慶応大学客員教授は、現状について既存の緊急事態宣言以上に厳しい規制が欠かせない、と強調する。ただ、このような対策を長く続けることはできないだろう。菅谷教授は「長期的にはワクチン接種の拡大による集団免疫の獲得を目指す必要がある。幸い、現在流行している変異株に対してもワクチンの有効性は高いので、重要な対策になる」と言う。

 ただ、欧米各国に比べて日本のワクチン接種の動きは大幅に遅れているとされ、菅谷教授も「ワクチン(調達)レースで一周遅れ」と話す。ワクチン接種の早期の拡大を求める同時に、ワクチンが普及するまでの時間を稼ぐために厳しい行動規制が欠かせない、と強調している。

 ◇病床増やす余裕なし

 コロナ感染者が急増すると問題になるのが、感染者を受け入れる病床の不足だ。国や自治体は、受け入れ病床の増加を各医療機関に求めている。しかし、病床を増やすには、そのために医師や看護師をコロナ診療に割り当てなければならない。

 この点について首都圏の中核病院の院長は「もともと医療スタッフには余裕がない。コロナ診療に関わるスタッフを増やすためには、心筋梗塞やがんなどコロナ以外の患者を担当している医師や看護師を回す必要が生じる。当然、コロナ以外の患者の受け入れを減らすしかないが、そうなれば医療崩壊につながる」と、現状の厳しさを明かす。

 長期的に見れば、日本の医療の中で感染症対策が重視されてこなかったという問題もある。もともと感染症治療に携わる医療スタッフが少ないため、流行期に十分なマンパワーも、関係者を指導すべき専門スタッフも不足している。

八王子市役所に設けられた高齢者を対象とするワクチン接種会場=12日、東京都八王子市

八王子市役所に設けられた高齢者を対象とするワクチン接種会場=12日、東京都八王子市

 ◇全医学部に感染症講座を

 日本感染症学会前理事長の舘田一博・東邦大学教授は「現在、感染症の専門教育課程(講座)がある医学部は全体の3割程度しかない。今回の大流行を教訓として、全医学部に感染症の講座を開設すべきだ」と提言している。講座開設に伴い大学病院には独立した常設の診療科が設けられ、教授以下、准教授や講師、助教らの医師だけでなく、専門看護師ら多くのスタッフをそろえる必要が生じる。

 こうしたスタッフがいれば、流行時に対応するだけでなく、他の診療科や医療機関のスタッフを指導することもできる。さらに育った人材を地域の中核病院などに派遣することで、地域医療での感染症対策のレベルアップも期待できる。そのためには、経営的な支援が欠かせない。

 「感染症が流行しない時期はある程度稼働率が下がることを前提に、診療報酬の設定が必要だし、他の診療科の患者の治療について助言や提案をした際に『コンサルタントフィー』とも言うべき報酬も設定してもらわないと、経営的に成り立たないだろう。今回の新型コロナウイルスが最後の感染症流行ということはないので、危機管理の一環としてもこれらの対策を講じてほしい」

 舘田教授はこう訴えている。(了)

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