FEATURE レポート紹介

理想の地域医療を追求する1人の挑戦から
=Challenge for the Borderless World=

 Challenge for the Borderless Worldは、たった1人の東海大医学部生が2017年に挑んだ取り組みをきっかけに広がりつつある活動だ。「実践を通じて、地域と信頼関係を築くための方法、グローバルな問題を市民に分かりやすく伝えて議論を深める方法を学ぶ」をテーマに、に、17年7月時点で、東海大の医学部、看護学部、健康科学部から計32人が参加している。

卒業する前に大きなチャレンジを

東海大には、学生が自由な発想で企画立案したプロジェクト活動を支援する「チャレンジプロジェクト」制度がある。それを利用して医学部6年の藤田耕己さんは「Challenge for the Borderless World」をスタート。医学部6年といえば極めて多忙だが、藤田さんはあえて新しい挑戦に踏み出した。
 「このまま卒業して医師になることに疑問を感じていました。プロジェクトを立ち上げた背景には、ソーシャル・キャピタル(人々の協調行動が活発化すると相互の信頼・協力が強くなって社会の効率性が高まる)という考え方を知ったこと、大学と自宅を往復する毎日に不安を持っていたことなど理由はいろいろとあります」
「また数年前になりますが、東海大で開催されたリーダーシップを育成するイベントに参加し、各国の保健分野のリーダーと出会えたことも大きなきっかけになりました。『現地の現状を知りたい』と思い、弟と2人で東南アジアを自転車で回る旅へ。シンガポールやマレーシア、タイ、ラオスなどさまざまな地域を巡り、人々や文化、さらには貧困や地域医療に触れて、『国境や民族を超えた活動がしたい』と考えるようになりました。Borderless Worldの名称はそれに由来しています」

代表を務める東海大医学部6年の藤田耕己さん

代表を務める東海大医学部6年の藤田耕己さん

2017年7月、元WHOハンセン病対策チームリーダーのスマナバルア博士を招いて開かれた講演会の模様(神奈川県伊勢原市の東海大学キャンパス)

2017年7月、元WHOハンセン病対策チームリーダーの
スマナバルア博士を招いて開かれた講演会の模様
(神奈川県伊勢原市の東海大学キャンパス)

2017年6月に開かれた「伊勢原イドバタ会議」では積極的な意見交換が行われた(神奈川県伊勢原市のだいろくコミュニティ広場 来るりん)

2017年6月に開かれた「伊勢原イドバタ会議」では
積極的な意見交換が行われた
(神奈川県伊勢原市のだいろくコミュニティ広場 来るりん)

市民と学生の交流の場を企画

藤田さんは帰国後、自分たちが暮らす日本について調べてみると、貧困や地域医療は途上国だけの問題ではないと知る。自ら行動して得た経験に基づいて、「社会にあるさまざまな問題を共有し、それらとどのように向き合っていくのかを考えるべきだと思いました」と語る。
 しかし、貧困問題、地域医療、国境や民族を超えた活動…。掲げるテーマはあまりにも大きい。そこで、まずは自分たちが暮らす地域にスポットを当てた。「今の私たちにできることは何か真剣に考えました」と藤田さんは振り返る。
 活路になったのは市民と学生の交流だ。17年6月、神奈川県伊勢原市の「だいろくコミュニティ広場 来るりん」で「伊勢原イドバタ会議」を企画。チラシを制作して公民館などで配布して人々の参加を呼び掛けた結果、市民と学生合わせて約30人が集まり、健康や食をテーマに対話した。
 「学生と市民、双方にとって貴重な学びの場になったと思います。私たちは、市民の方々が医療に対して敷居の高さを感じていることや、在宅医療について感じていることなど、貴重な声を聞くことができました。また、『医師の人間力』に期待する声も印象に残りました。これからもさまざまな価値観に触れて、人間力を養っていきたい。そして今後も機会を設けて人と人とのつながりを生んでいきたい」

2017年6月に開かれた「伊勢原イドバタ会議」後の記念撮影。30〜70代の女性の参加者が目立った(神奈川県伊勢原市のだいろくコミュニティ広場 来るりん)

2017年6月に開かれた「伊勢原イドバタ会議」後の記念撮影。
30〜70代の女性の参加者が目立った
(神奈川県伊勢原市のだいろくコミュニティ広場 来るりん)

共感してくれた仲間と共に継続的な活動を

「イドバタ会議」を企画した背景には、ソーシャル・キャピタルの考え方があるという。
 「ソーシャル・キャピタルでは、独りで過ごすよりも近所の方々や社会と交流を図りながら生活する方が健康面でも良いと実証されています。私たち医学生が積極的に交流の機会を設けることで、市民の方々の考え方やライフスタイルに変化が生まれたらいいなと思っています。間接的に健康にも寄与できたらうれしいですね」
 藤田さんの考え方と行動力に感銘を受け、参加するメンバーも増えてきた。彼らはそれぞれChallenge for the Borderless Worldの一員としてあらゆるアプローチで参加している。WHOで活躍していた職員を招いた勉強など、活動の幅も少しずつ広がってきた。
 「海外で活動したい、共に学びたい、地域医療を知りたい、いろいろな思いを持った仲間が協力してくれています。大切なのは活動を一過性で終わらせないこと。僕は北海道出身で、地元を見ても医療が行き届いていない場所がたくさんあります。これから先、どのような形で医療に携わっていくかまだ分かりませんが、ここで学んだことを将来に生かしていきたいですね」