FEATURE レポート紹介

国際会議参加から小児保健教育まで
=世界最大の医学生NGO日本支部「IFMSA-Japan」=

国際医学生連盟(IFMSA=International Federation of Medical Students' Associations)は、1951年に欧州で設立された。137カ国と地域から130万人以上の医療系学生が参加している世界最大の医学生NGO(非政府組織)だ。その日本支部であるIFMSA-Japanは、1961年に加盟。現在、国内で約800人の個人会員、300人のスタッフが参加し、国内外で幅広い活動を行っている。IFMSA-Japan代表の笠井俊佑さんと第16回日本総会運営委員長の文永徽さんに活動の内容と魅力について聞いた。

代表の笠井さん(左)と委員長の文さん

◇運営は全て学生の手で

――IFMSA-Japanは主にどのような活動を行っていますか。

笠井さん六つの常設委員会、「臨床交換留学」「基礎研究交換留学」「公衆衛生」「性と生殖・AIDS」「人権と平和」「医学教育」があり、各委員会の中で、さまざまなプロジェクトに分かれて活動しています。Skypeなどインターネットを利用して、週に1~2回、全国または地域ごとに勉強会、ミーティングを開催しています。

留学のような国際的なイメージがありますが、内容は国際会議に参加するという世界レベルの活動から、国内ではぬいぐるみを使いながら、医療や健康についてこどもに教えるといった草の根的なものまで、さまざまな活動があり、全て学生たちの手で運営しています。

――他の留学エージェントとは、どのように違うのですか。

笠井さん留学のエージェントは学外にもいろいろありますが、IFMSAの特徴としては、世界137の国が加盟しているので、アフリカ、アジア、中東圏内など、通常、一般的な留学エージェントでは扱っていないような国々への留学も可能です。大学から推薦されて参加する留学は人数も少なく、ハードルも高いのですが、IFMSA-Japanでは本人の意欲さえあれば、参加しやすいと思います。手続きは全て学生が行っているので、費用もかなり低く抑えられています。昨年は70人の学生が留学しました。

代表の笠井さん

――学生だけで運営しているのはすごいですね。お二人の参加のきっかけは何ですか。

笠井さん私はもともと国際医療に興味がありました。先輩からIFMSAでアフリカに派遣されるプロジェクトの話を聞いていたので、海外プロジェクトについて身近に感じていました。その時から自分も参加してみたいと思っていたところ、2年生の時にIFMSAの活動でアジアの災害についてのワークショップがあったので、思い切って参加してみました。結局、国際的な活動にはまり、アフリカにも行くことができて、海外での医療を肌で感じることができました。

文さん名前からも分かるように、私は中国人で、中国東北部出身です。ロシアとの国境紛争のために中国東北部に派遣された叔父さんと共に移住した母と、関東軍による植民地時代に中国東北部に流れ込んだと思われる朝鮮族の後世である父が出会って産まれました。戦争がなかったら産まれてなかった命でもあり、戦争を一元的に否定できないという思いがあります。ということもあって、戦争と平和について興味がありました。

IFMSA-Japanの新歓で戦争についてディスカッションするワークショップがあり、参加してみました。参加する前は戦争を知らない日本の学生たちが、まともに議論できるはずがないとタカをくくっていましたが、始まってみると、しっかりとした考えを持って、深いところまで議論しているのに驚きました。こういう仲間たちと一緒に活動がしたいと思い、参加を決めました。

委員長の文さん

◇一般スタッフも国際会議に参加

――海外の学生と交流する国際的な活動も多いのでしょうか。

笠井さん国際会議は世界総会が年に2回、3月と8月にあり、世界約100カ国から800人超の医療系学生が参加します。世界中で行われている活動を共有する貴重な機会です。さらに地域会議として、アジア太平洋地域会議が年1回あります。

国際会議は幹部だけでなく、希望すれば、一般スタッフも参加できます。私は昨年、初めてアジア会議に参加したのですが、さまざまな国の医療事情や制度の違いなど、日本の常識とはかけ離れた話を聞くのは、大変に刺激的で勉強になります。国内の大学や病院の中にとどまることなく、世界の人たちと積極的に情報交換することで、視野がどんどん広がります。

学生団体ではありますが、国連機関の世界保健機関(WHO)のようなグローバルな組織がどのようにつくられ、どのように社会に影響を及ぼすのかなどについて学ぶ貴重な体験ができます。IFMSAにはいろいろな国が関わっていますので、国によっては各国間の対立が表面化しているところもあります。学生同士ではありますが、時には世界情勢を見ながら、自分の国のスタンスを決めることも求められ、大変やりがいがあります。

――どんなプロジェクトが印象に残っていますか。

笠井さん昨年、WHOの模擬会議を日本で行いました。私が台湾で体験し、おもしろいと思ったので、日本でも取り入れてみました。参加者は50人、スタッフ20人、「感染症」をテーマにして、参加者にそれぞれ担当する国が割り振られます。その国の人の立場になって会議に臨みます。その国の課題を見つけ、解決するために何を要求するか、あらゆる角度から方策を考えます。メジャーな国ばかりではないので、国によっては資料収集に苦労した参加者もいました。シミュレーションではありますが、白熱した議論が行われました。

――面白そうですね。ほかにも国内で開催されるイベントはありますか。

文さん年に1回、国内総会が行われます。医学生を中心に毎年、全国から300~400人が集まる、IFMSA-Japanの中では最大のイベントです。2018年は11月23~25日の3日間、東京の国立オリンピック記念青少年総合センターで第16回日本総会が開催されました。今年は「ノーマライゼーション(Normalization)」をテーマに、いくつかのトピックスについて、ワークショップやフィールドワークが行われました。

ワールドカフェでは興味のあるテーマのテーブルへ移動しながら議論を交わす=日本総会

◇医療系学部でなくても歓迎です

――もう少し総会について詳しく聞かせていただけますか。

笠井さん「体験の風をおこそう」日本総会の舞台、国立オリンピック記念青少年総合センターに掲げられた言葉です。私が日本総会に関わったのは今回で4回目なのですが、その度ごとに新しい「体験」があります。

大学の枠を超え、全国の医療系学生と議論を交わす体験、国際性豊かな企画の裏側を知る体験、大衆の前で自らの活動を発表する体験。そして今回は団体の代表として運営委員長の文とともに総会を主催するという体験を味わいました。この「体験」をより多くの学生に感じてもらえるよう、今後の団体の運営に生かしていきたいと思っています。

文さん今年の国内総会のテーマが「Normalization」に決まり、IFMSA-Japanのスタッフから具体的にアプローチする対象を募集しました。その対象には、一般的に定義される障害者や高齢者、子供という社会的弱者だけでなく、性労働者、発達障害者、性同一性障害者、被災者など自分たちが全く思いもつかなかった対象が多く含まれていました。

真の意味での「Normalization」の可能性に感動した一方で、マニアックな対象について、医学生に理解されるか、心配もありました。しかし、閉会後に参加者から頂いた感想に「新たな視点を得られた」「実に面白い観点だ」など、肯定的なコメントが多かったので、IFMSA-Japanの理念である「幅広い視野を持った医療人の育成」を達成できた素晴らしいイベントになったのではないかと思っております。

地方で取り組んでいるプロジェクトを共有する場にもなっている=日本総会

――最後に、入会を検討している医学生に向けてメッセージをお願いします。

笠井さんIFMSA-Japanは横文字で難しそうですが、世界に目を向け、日本の地域にも目を向けて、その二つをつなぐプラットフォームのような存在になれればと思っています。参加するきっかけは、自分のように国際的な医療問題に関心があってもいいし、地域の子供と触れ合いたいという身近な関心でもいいと思います。世界から地域、地域から世界、またはどちらか一方でも、両面からでも、楽しみながら学べる団体です。

文さんIFMSA-Japanは、さまざまな活動を行っていますが、自分のやりたいことを探して、実現することもできます。ゼロからのスタートでなく、既にベースがあるので、新しいことをすぐに始められる環境が整っています。医療系学部でなくても医療に関心のある法学部、工学部、医学教育関連と、医療に関心のある学生に広く門戸を開いています。少しでも興味を持たれた方はぜひ一度遊びに来てください。

記事の内容、肩書などは取材当時のものです。