「医」の最前線 感染症・流行通信~歴史地理で読み解く最近の感染症事情~

今夏もCOVID-19は流行するのか
~新変異株NB.1.8.1型の影響は? 東京医科大客員教授・濱田篤郎【第18回】

 COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の流行が発生して5年以上が経過しました。ここ数年の日本での流行状況を振り返ると、夏と冬に二つのピークが生じています。夏に呼吸器感染症が流行するのは珍しいことですが、今年も夏に流行は再燃するのでしょうか。5月以降、アジア各地で新変異株による患者数増加が報告されており、その影響も気になるところです。今回は2025年夏のCOVID-19の流行状況について予測してみます。

 ◇アジアでの流行再燃

 今年の5月中旬から、アジアの熱帯や亜熱帯地域でCOVID-19の患者数が増加しています。この流行は東アジア(中国南部、台湾など)、東南アジア(シンガポール、タイなど)、南アジア(インドなど)と広範囲に及んでおり、各国の医療機関は外来患者で混雑していますが、重症者が増える状況にまでは至っていません。また、6月中旬には、患者数の増加が抑えられてきたとの報告も見られます。

モンスーンによってもたらされた雨期の様子=2011年6月、インド東部コルカタ(EPA=時事)

モンスーンによってもたらされた雨期の様子=2011年6月、インド東部コルカタ(EPA=時事)

 今回のアジアでの流行の原因として、この地域が雨期に入ったことが挙げられます。アジアの熱帯や亜熱帯には雨期と乾期がありますが、雨期は屋内で過ごす時間が長くなるため、COVID-19のような呼吸器感染症の患者が増加するのです。

 これに加えて、新たな変異株であるNB.1.8.1型の出現が影響しているようです。

 ◇新変異株の特徴

 NB.1.8.1型はオミクロン株のJN.1系統に属する変異株で、今年1月末に初めて確認されました。昨年秋から世界的に流行しているXEC型やLP.8.1型と同じ系統になります。この新しい変異株の検出がアジアの流行地で増えてきたため、世界保健機関(WHO)は5月末にNB.1.8.1型を正式な監視対象(VUM:Variant Under Monitoring)にすると発表しました。

 この時点でWHOは、NB.1.8.1型の伝染力はやや強いが、免疫回避能や病原性は従来の変異株と同等との評価をしています。さらに、東京大学医科学研究所が6月6日に英国の医学誌Lancet Infectious Diseaseに発表した報告でも、伝染力は従来の変異株に比べて強いものの、免疫回避能は向上していないとの結果が示されています。

 こうした情報から、NB.1.8.1型は伝染力が強いことで多くの患者が発生する可能性はありますが、過去の感染やワクチン接種で得た免疫がある程度有効なため、患者数が爆発的に増えたり、重症化を起こしたりすることは少ないようです。現在のアジアでの流行状況も、この変異株の特徴を反映していると考えます。

 ◇温帯地域への影響

 日本や欧米など温帯地域では、6月中旬までにCOVID-19の患者数の大きな増加は見られていませんが、NB.1.8.1型は既に検出されています。

 国立健康危機管理研究機構によると、日本では4月の時点で検出されたウイルスの6.8%がこの変異株でした。米国でもこの変異株は急拡大しており、米疾病対策センター(CDC)のデータを見ると、検出ウイルスに占める割合が、5月に15%だったのが6月は37%に増加しました。

 このように、NB.1.8.1型はアジアの熱帯や亜熱帯だけでなく、北半球の温帯地域でも流行株として置き換わりつつあります。こうした中、日本はCOVID-19の流行しやすい夏を迎えることになるのです。

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