こちら診察室 人生が鼻でこんなにも変わる⁉ 鼻にまつわるドクターのハナシ
睡眠の質は、鼻が鍵になる!
~セルフケアも重要~ 【第6回】
「しっかり寝たはずなのに疲れが抜けない」ー。そんな悩みをお持ちの方は少なくないでしょう。睡眠の質を語るとき、枕やマットレス、スマホのブルーライトなどに注目が集まりがちですが、耳鼻咽喉科医の立場から見ると、鼻呼吸が確保できているかどうかは見過ごせないポイントです。
鼻は呼吸の入り口であり、加温・加湿・ろ過という生命維持に欠かせない役割を担っています。今回のコラムでは、最新の医学研究を交えながら「鼻と睡眠の関係性」を分かりやすく解説し、快眠を取り戻すための具体策を紹介します。
◇鼻が担う三つの基本機能
まずは鼻が担う三つの基本機能を紹介します。
①空気をきれいにするフィルター機能
鼻腔(びくう)内の粘膜と繊毛は、花粉やハウスダスト、細菌などの異物を絡め取り、肺に届く前にブロックします。鼻呼吸が維持されることで、免疫細胞が異物を素早く排除し、夜間のせきや喉の違和感を予防できます。
②温度・湿度の調整
冷たく乾いた外気を体温近くまで温め、相対湿度をほぼ100%に高めてから気管へ送ります。適切な湿度は気道粘膜の繊毛運動を保ち、いびきを抑える効果も期待できます。
③一酸化窒素(NO)の産生
鼻腔で生まれる一酸化窒素(NO)は血管拡張や肺胞拡張を促し、酸素交換効率を高めることが明らかになっています。さらにNOは抗菌作用を示し、夜間の呼吸器感染予防にも寄与すると考えられています。

睡眠の質を語るとき、鼻呼吸が確保できているかは見過ごせないポイント
◇鼻呼吸が睡眠を深くするメカニズム
では、鼻呼吸が睡眠を深くするのはどのようなメカニズムなのでしょうか。ここからは三つのポイントを順に見ていきます。
・気道抵抗の〝適度な負荷〟が呼吸運動を安定
鼻腔には口腔(こうくう)よりも大きな空気抵抗があります。この「適度な負荷」が呼吸筋のリズムを安定させ、深いノンレム睡眠を維持しやすくすることが報告されています 。心拍変動(HRV)の指標でも、鼻呼吸を保てた群は副交感神経優位が保たれ、夜間の覚醒反応が少なかったとのデータがあります。
・一酸化窒素(NO)による酸素取り込み効率の向上
就寝中は無意識に呼吸回数が減るため、酸素交換効率の高さが欠かせません。鼻呼吸で分泌されるNOが肺血流を拡張し、血中酸素飽和度を保つことで睡眠の質を底上げします。
・口呼吸が招くトラブルを回避
寝ている間に口が開くと、舌根が気道をふさぎやすく、いびきや無呼吸を誘発します。口腔乾燥によるのどの痛みや虫歯リスクも高まるため、鼻呼吸に切り替える意義は大きいのです。
◇鼻づまりが続くと起こる睡眠障害
アレルギー性鼻炎、副鼻腔炎、鼻中隔弯曲などによって鼻腔抵抗が増えると、「睡眠が浅くなる」「途中で目が覚める」といった症状が増えます。鼻閉は閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)の重症化因子にもなり、日中の眠気や高血圧、心血管イベントのリスクを高めることが報告されています。最近のシステマティック・レビューでは、鼻閉患者のPSQIスコア*が健常者より有意に高い(=睡眠の質が低い)ことも示されました。
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(2025/07/02 05:00)