こちら診察室 女性医療現場のリアル〜悩める患者と向き合い、共に成長する日々〜
介護脱毛って実際どうなの?
「介護される立場になったとき、アンダーヘアがあると迷惑になるんじゃないかと思って…」と、声をひそめながら話す女性がここ数年で確実に増えてきました。いわゆる「介護脱毛」に関する相談です。デリケートゾーンに関する悩みは世代を問わず非常に多いテーマです。今回は、「ちょっと聞きにくい」「他の人はどうしてるの?」といったモヤモヤを、現場の医師として、そして一人の女性として率直に伝えます。

要介護状態になったときのために、あらかじめデリケートゾーンの脱毛を検討する女性が増えている(イメージ画像)
◇将来に備えアンダーヘア処理
介護脱毛とは、誰かに排せつ介助などのケアをしてもらう立場になったときのために、アンダーヘア(以下VIO)をあらかじめ処理しておく脱毛のことを言います。主に40〜60代の女性の関心が高く、将来への「備え」として検討する方が年々増えてきています。
排せつ時の清拭(せいしき)がしやすくなる、ニオイや感染リスクが減るといった衛生面のメリットが注目されがちですが、それ以上に患者さんからよく聞くのは「他人に見られるのが恥ずかしい」「迷惑をかけたくない」という気持ちです。背景には、女性としての尊厳や将来への不安、そして人に世話になることへの抵抗感が入り交じった思いがあると感じます。
◇増える相談「恥ずかしいけど聞きたい」
「こんな話をしていいか分からないけど…」 。そうした前置きの上で、介護脱毛について聞かれることは珍しくありません。美容脱毛のような感覚ではなく、あくまで将来を見据えた準備としての脱毛であるため、身近な友人にも話しづらく、ネットで検索しては「こんなこと考えてるの私だけ?」と不安になる方がほとんどです。
「実際に脱毛してる人っているんですか?」「閉経後にVIOを脱毛しても大丈夫なんですか?」「何歳くらいまで受けていいんですか?」。こうした質問は毎日のように寄せられます。それだけ情報が足りておらず、一方でニーズは確実にあるというのが医療現場の実感です。
◇意欲とためらい、揺れる心
私たち婦人科医は、日常的に女性のデリケートゾーンを診察します。その中で気付くのは、加齢とともに皮膚が敏感になったり、乾燥や炎症を繰り返しやすくなったりするという事実です。
閉経後の女性は、外陰部のかゆみや痛み、軽い炎症が続くことがよくあります。こうした方にとって、毛があることで不快感が強まるケースも少なくありません。排尿後の拭き取りや、生理用品による蒸れ・かぶれが気になる世代だけに、「衛生面で快適に過ごしたい」という気持ちはよく理解できます。また、婦人科の処置や検査(内診・超音波検査など)を受ける際にも、「VIO脱毛をしていたために恥ずかしさが軽減された」という声もあります。
一方で、「全てなくすのはちょっと不安」「パートナーの反応が気になる」といった、感情的なハードルも確かに存在します。この「グレーゾーン」で揺れ動く気持ちこそが、まさに多くの女性のリアルなのだと日々感じています。
◇施術は納得の上で
VIO脱毛には確かに衛生的な利点があり、介護の現場でも「処理がしやすくなった」という声が実際に聞かれます。ただし、「医療としての必要性があるかどうか」は個別に判断すべきです。
例えば、慢性の皮膚疾患がある方や出血傾向のある持病がある方は、脱毛の方法やタイミングに注意が必要です。医療脱毛(レーザーなど)であれば、安全性が高く、管理された環境で行えますが、どんな施術でもリスクがゼロではありません。

今後の人生を考える上で、介護脱毛を一つの選択肢として知っておいてほしい(イメージ画像)
何より大切なのは、なんとなく流されてやるのではなく、自分の価値観や将来像に照らし合わせて納得して決めることです。不安があるなら遠慮なく相談してください。「婦人科でVIO脱毛の話なんてしていいのかな…」と思う方がいるかもしれませんが、まさに私たちの「守備範囲」です。
◇「自分らしさ」の選択肢として
介護脱毛は、単なる美容行為ではなく、これからの人生をより快適に、自分らしく生きるための準備と捉えることができます。医療現場で日々接する女性たちの声からも、それが見た目の問題ではなく、体の自由、心の安心感を求める行動であることが伝わってきます。
年齢を重ねるからこそ「今後の自分の体との付き合い方」を見つめ直すタイミングが訪れます。介護脱毛というテーマは、その入り口の一つです。選ぶかどうかよりも、「こういう選択肢がある」と知っておくことが将来の安心につながるのではないでしょうか。
不安や疑問があるとき、誰かに話せば気持ちが軽くなることは少なくありません。もし、「こんなこと相談してもいいのかな?」と思ったら、それはきっと相談していい事柄です。私たち婦人科医は、あなたの体と心に寄り添う医療者でありたいと願っています。(了)

沢岻美奈子院長
沢岻美奈子(たくし・みなこ)
琉球大学医学部を卒業後、産婦人科医として25年以上の経歴を持つ。2013年1月、神戸市に女性スタッフだけで乳がん検診を行う沢岻美奈子女性医療クリニックを開院。院長として、乳がんにとどまらず、女性特有の病気の早期発見のための検診を数多く手掛ける。女性のヘルスリテラシー向上に向け、インスタグラムやポッドキャスト番組「女性と更年期の話」で、診察室での患者とのリアルなやりとりに基づいたストーリーを伝えている。
日本産科婦人科学会専門医、女性医学学会認定医、マンモグラフィー読影認定医、乳腺超音波認定医、オーソモレキュラー認定医。漢方茶マイスター。
(2025/06/18 05:00)
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