高井信朗 医師 (たかいしんろう)

日本医科大学付属病院

東京都文京区千駄木1-1-5

  • 整形外科
  • 主任教授

整形外科 外科

専門

膝関節外科、人工膝関節、スポーツ整形外科

高井信朗

膝の研究と臨床における国内屈指のスペシャリスト。とくに変形性膝関節症に対する人工関節置換術において大きな実績をあげている。国際的な人工関節に関する学会理事を務めるなど、国際的にも有名な医師である。痛みを取り除くのはもちろんのこと、違和感がなく、自然な感覚を維持できる人工膝関節をめざし、その設計、手術手技の開発を常に行っている。同科は術前診断からリハビリテーションまで精度の高いトータルな医療を実践しているが、治療は決して手術に偏ることがない。先進的手術手技を取り入れているが、同時に患者のニーズに合った治療を心がけている点も、患者の信頼を得ている。

診療内容

膝が痛くて歩けない、歩くのがいやだと変形性膝関節症に悩む中高年は多い。高齢化が進むとともにさらに増加の傾向にあるが、歩くこともままならないほどの症状でも、助けてくれる治療法がある。それが人工関節置換術だ。「人工関節の最大のメリットは痛みがとれることです。また昔は人工関節を入れると膝が曲がらなくなると言われていましたが、ここ数年の発達は急速で、膝の曲がりも十分得ることができるようになりました。日常生活のみならず、軽いスポーツも行えるようになります」と高井医師は話す。
痛みの原因は、老化により骨と骨の間のクッション材である半月板や関節軟骨がすり減り、関節への衝撃が吸収できなくなることにある。特に日本人の場合はややO脚気味のため内側の軟骨が痛みやすい。治療としては、初期には保存療法がとられる。「保存療法には肥満防止、大腿四頭筋の筋力低下を防ぐ運動療法、O脚の変形を防ぐ装具療法、潤滑液を投入する薬物療法などがあります。こういった治療で効果が見られない場合に、人工関節置換術という外科的療法をとることになります」。手術で半月板の代わりに滑りのいいショックアブソーバー、膝のお皿の代わりにプラスチック製の膝蓋骨を入れることにより痛みの原因であった接触部分がなくなり、膝を動かすことが可能になる。所要時間は2時間ほどだ。「その後重要なのはリハビリです。術後翌日から脚の曲げ伸ばしと、手すりにつかまって立つ訓練を始めます。3日目からは歩行訓練、7日目からは階段の上り下りを行います。通常生活に復帰するための大切な過程で、15日間ほどで退院となります」。退院後は半年に1回の検診以外通院の必要はない。人工関節の耐久年数は20年ほどで、曲がる角度も年々改良されているという。
「症状が軽く一生手術の必要のない患者さんもいらっしゃいます。日常生活に支障が出て困っているようなら、積極的に人生を送っていただくためにも手術をお勧めしています。術後は痛みがなくなり生活が一変します。やりたいことをやり、行きたいところへ行く喜びをいつまでも味わっていただきたいですね」と高井医師はアドバイスする。
成人膝関節慢性疾患の治療はまず、保存的治療であり,薬物療法と非薬物治療がある。保存的治療が不十分な場合には手術が考慮される。手術には,関節鏡、軟骨修復、骨切り、人工関節があり、どれを行うかについては複数の要素、部位、変形性膝関節症の程度、片側か両側かなどによる。鏡視下洗浄デブリドマンはしばしば行われるが,変形性膝関節症の進行を防げない。内側だけ、外側だけといった関節の一部分の病変であれば,単顆置換術ないし骨切り術が考慮される。全人工関節置換術は高齢者に対する一般的で安全な方法であるが、耐用性から若年の活動的な患者に勧められない。

1.関節鏡視下デブリドマン…理論的には、滑膜炎の原因となる関節内浮遊物や炎症性化学物質を取り除くことは症状を和らげる。デブリドマンは損傷半月や遊離軟骨片を取り除けるが、その意義については異論がある。鏡視下デブリドマンは一般的な治療と考えるべきではないが、半月損傷、遊離体、陥屯症状、水腫が明らかな患者には有用である。
2.軟骨修復
1)骨髄刺激法…軟骨下骨の穿孔で軟骨修復を促進し、軟骨下骨髄からの多分化能細胞は欠損部の軟骨再生を促進する。軟骨下骨をドリルで穿孔する方法は以前は切開下で行われていたが、近年は軟骨下骨に3~4mm間隔で2~4mmの穴を開ける方法である。費用がかからず、簡単な事から広く用いられているが、その欠点は正常軟骨への修復が限られ,量、機能低下の点である。MRIで軟骨欠損を認めた場合には、さらなる軟骨欠損の拡大を防ぐために、外科的処置を行うことが推奨される。特に欠損の大きさが10mm以内の患者には有用ではある。
2)骨軟骨移植法…骨軟骨欠損の再建は自家、同種の骨軟骨移植による。自家移植はモザイクプラスティーないし骨軟骨移植法と呼ばれる。膝蓋大腿関節部の大腿骨顆部からの円柱状プラグが欠損部に移植される。利点は硝子軟骨からなるグラフトが使え、下部の骨も置換できることで、欠点はグラフト採取範囲が限られる事と手技的困難さである。軟骨欠損の大きさが10mm以上の場合には有用である。離断性骨軟骨炎や外傷に伴う骨軟骨欠損が最も良い適応である。
3)自家軟骨細胞移植法…培養増殖させた軟骨細胞を移植する方法である。まず、軟骨プローブに軟骨細胞が鏡視(内視鏡)下に採取され、移植の前に培養で3~4週間増殖させる。これを何個痛欠損部いいに移植する。適応は若年患者で軟骨病変が限られている事である。
3. 膝周囲の骨切り術…骨切りの理論は加重軸を変更し、痛んだ関節を免荷し、過矯正して荷重を移すことにある。内外反(O脚やX脚)を伴う変形性膝関節症に対しては下肢の一部を骨切りして矯正を行う方法である。19世紀からされ、20世紀前半に広まった。80~90年代になり人工関節の成功によりその重要性が失われた。人工関節に比較して骨切りは術後が予想し難く、合併症のある方法と見なされた。この10年で新しいプレートや骨移植の要らない術式の開発で、腓骨神経麻痺の回避から若年者に対して再流行している。変形性膝関節症や大腿骨顆部骨壊死が良い適応ではあるが、通常、疼痛発現から経過の長い場合に行う。
4.人工膝関節置換術…本邦における高齢者人口の増加は急速で、それに伴って変形性膝関節症患者も増加し続けている。特に膝関節は荷重関節であり、その破壊は歩行障害を引き起こし、日常生活に大きな影響を与える。高齢者の社会参加を促すには単に疼痛をとるばかりでなく、広い可動域、手すりを必要としない階段昇降能、助けを必要としない床からの立ち上がり、職場への通勤、スポーツへの参加なども可能な治療法の開発が期待されている。人工膝関節は、進行期変形性膝関節症に対し、認められた、安全で費用対効果に優れた方法である。その全人工関節置換術の耐用性はおよそ20年である。55歳以下の比較的活動性の高い患者に対する人工膝関節の長期成績も安定している。したがって、再置換術の頻度は低いものの、高齢化社会や初回人工膝関節の低年齢化に伴って再置換術の症例数は年々増加している。再手術あるいは再置換の原因としては、術後早期では、感染、人工関節の設置不良や軟部組織の緊張不良による非感染性弛みの二つが主な原因である。人工関節の設置については近年の器械化によって精度は向上しているが、さらに、ナビゲーションシステムやロボットサージャリーが加速させるであろう。晩期での原因は主にポリエチレンの摩耗およびそれによる骨融解である。

医師プロフィール

1980年3月 京都府立医科大学 卒業
1989年7月 米国カリフォルニア大学 留学
1993年4月 京都府立医科大学 講師
2001年9月 米国ピッツバーグ大学医学部招聘教授
2003年4月 帝京大学医学部整形外科教授
2011年4月 日本医科大学整形外科学講座主任教授