酒井義浩 医師 (さかいよしひろ)

東京医科大学病院

東京都新宿区西新宿6-7-1

  • 客員教授

内科 消化器科

専門

専門は消化器病学と消化器内視鏡学で、とくに便秘、過敏性腸症候群に詳しい

酒井義浩

専門は消化器病学で腸の疾患に詳しく、便秘・過敏性腸症候群の名医として知られる。内視鏡は胃カメラ時代からの経験も含め40年以上に及び、内視鏡による診断・治療の権威。大腸ファイバースコープ等の開発にも携わり、小さな大腸ポリープを切除するポリペクトミーという処置法に用いるワイヤー(投げ縄のようにして隆起したポリープの根元にかけて切除する)であるスネアという処置具の開発も手がけ、その治療法のパイオニアとして世界的に知られる。内視鏡の実技指導を最初に海外で行った先駆者の1人でもある。内視鏡で診断して可能であれば、その場で治療することをモットーとしている。

診療内容

現代社会はストレス社会といわれ、さまざまなストレスにさらされているが、そうしたストレスによって体の不調を訴える人も少なくない。最近、よく聞く過敏性腸症候群もそうしたストレスが原因となる疾患の1つである。欧米の先進国に多く、一種の文明病と考えられており、日本でも10~15%の人がこの病気に悩まされているという。酒井医師はこうした現代人が陥りやすい大腸の病気に詳しく、とくに過敏性腸症候群の名医として知られる。胃腸の疾患の検査の際に内視鏡が用いられるが、酒井医師は内視鏡を用いた診断と治療の草分け的な存在であり、卓越した技術を持ち、内視鏡を使った大腸の診断や治療法の開発に大きな貢献を果たしている。
過敏性腸症候群は心理社会的ストレスに起因して発症し、英語ではirritable (過敏な)bowel(腸) syndrome(=IBS)という。過敏性腸症候群が起きるメカニズムははっきりとは解明されていないが、ストレスが大きく影響していることがいわれている。腸にはさまざまな神経伝達物質が存在し、それらによって腸の状態が脳に信号として送られる。脳からは自律神経により腸が正常に働くように指令が伝えられる。腸のぜん動などもそうだが、ストレス過多状態になると脳からの命令が阻害されて、胃腸の調整がうまくいかなくなり、便通異常が起きると考えられている。過敏性腸症候群には「下痢型」と「便秘型」、下痢と便秘が交互に現れる「交代型」などがあり、下痢型は男性、便秘型は女性に多くみられ、20~40代の比較的若い世代に多いという特徴がある。男女比は1:1.6で女性の方がやや多い。
大学受験や就職や転職、肉親の死亡、災害に遭うなどの大きな出来事や、家庭や職場での人間関係に悩んだり、人前での発表や試験など緊張した場面が引き金になることもある。下痢にひんぱんに襲われるため、電車に乗っていても何度も降りなければならなかったり、授業中に何度も席を立つなど、QOL(生活の質)を悪くして学業や就業に大きな支障をきたす。そのため、社会生活が円滑に行えなくなるなど患者の悩みは深刻である。酒井医師は「最初に過敏性腸症候群の症状は治療により改善していきますが、基本的には一生付き合っていく病気ということをまず、知ってもらいます。もちろん、症状を改善することでQOL(生活の質)が良くなり、日常生活も支障なく送れるようになれますので、前向きな気持ちを持って治療に取り組んでいただくようにしています」と話す。酒井医師は問診の際は症状を詳しく聞くために十分に時間をかける。「消化器内科においては問診の果たす役割は大きく、食物アレルギーの有無など患者さんとの会話によって判明することも多く、そのため、心療内科と同じくらいに問診に時間をかけるのです」(酒井医師)
続いて血液検査、エックス線検査(注腸造影)、大腸内視鏡検査を行う。「ローマ2基準」に当てはまり、内視鏡で腸に炎症、潰瘍がない場合は過敏性腸症候群の可能性が極めて高くなる。ローマ基準では腹痛や腹部不快感が1年のうち12週以上(1週間のうち1日でもあると1週とする)あり、腹痛に関しては「排便で改善」「排便の回数の変化で腹痛などが始まる」「便の形状の変化から始まる」のうちの2項目に当てはまるものをいう。過敏性腸症候群の診断を確定するためには同じような症状の疾患を除外していく“除外診断”が必要とされ、内視鏡により大腸がん、潰瘍性大腸炎、クーロン病などを除外され、食物アレルギーなども除外され、除外されるべきものがすべてなくなって最終的に「過敏性腸症候群」と診断される。症状改善には生活習慣の改善が欠かせない。規則正しい生活をはじめ十分な睡眠と休養、ストレスの解消といったことである。3食を決まった時間に摂る、朝の排便を習慣づける、暴飲暴食を避けるといったことに気をつけ、食事療法、運動療法により症状の改善を図る。とくに下痢症状がある場合は香辛料や冷たい飲食物、脂っこいものなどを避け、乳製品やアルコールも控える。逆に便秘をくり返している場合は香辛料など刺激の強い食品は避け、水分や食物線維を多く摂るようにする。運動は腸の働きを整える効果が期待できるだけでなく、気分転換やストレス解消の作用もあることから散歩や軽いスポーツなどを生活に取り入れ、習慣づけるようにする。こうした食事療法や運動療法で症状が改善しない場合は、薬物療法が用いられる。第一選択薬はポリカルボフィルカルシウムである。ポリカルボフィルカルシウムは2000年に認可された薬で食物繊維と同じような働きをする高吸水性ポリマーでできている。胃酸でカルシウムが脱落し、腸内に入って水分を吸いはじめ、約30倍に膨潤し、下痢のときは正常な便に、便秘のときは便を軟らかくするなど便をちょうどよい硬さに保つので便秘にも下痢にも用いられる。しかも腸壁からは吸収できないので副作用もない。
ポリカルボフィルカルシウムで症状が改善がされない場合には便秘に対しては下剤、下痢に対しては下痢止めも併用して処方される。便秘にはマグネシウム、下剤にはカルシウムも使うほか腸内細菌調整薬も使って腸内の善玉菌を増やして下痢、便秘を改善させる。そのほか、消化管運動調節薬や抗コリン薬(腸の異常な運動を抑え、腹痛を抑える)などがあるが、さらにそれでもコントロールが難しいときは「精神安定薬」を用いることもある。最近は腸のセロトニンに作用して症状を改善するセロトニン3受容体拮抗薬が開発されている。腸で作用するセロトニンの働きを抑え、腸の運動異常や痛みを感じやすい“内臓知覚過敏”という状態を改善する治療薬で、下痢型のIBSに用いられる。基本的には薬を使って反応を診て、薬の処方を調整していくと同時に、心療内科と同じように患者の話を十分に聞き、ストレスになっている原因を探すことも時間をかけて行うと酒井医師。ストレスを解消する方法も患者との話の中でアドバイスしている。運動や大声で歌うことや、帰宅する際も40分くらい歩いて帰るのもよい。歌う際にはカラオケよりも合唱するのも効果的だと勧める。ヨガ、ストレッチ、気功などすぐに行えて瞬間的にストレスを忘れていられるものがベストである。「生活習慣を改善していき、運動や声を出して発散して気分転換などを行うことで薬もしだいに減らせ、最終的には薬を服用しなくてもよくなります」(酒井医師)
最近の研究では感染性腸炎との関連性も指摘されている。IBS患者の多くが過去に感染性腸炎への罹患経験があり、腸粘膜に微細な炎症がみられるという。そのため、通常は問題にならないようなわずかなストレス刺激にも反応してしまうという。将来は除菌療法によってIBSが解消することが期待されている。
下痢や便秘だけでは病院に行こうと気が起きない人も多いが、IBSの治療法も日進月歩で進歩している。消化器専門医でなければできない治療もあるため、できればそうした専門の病院を訪れることをお勧めする。IBSも悪循環に陥ると精神面にも悪影響を及ぼし、精神症状の合併症を招く恐れもある。早めに専門医を受診することが症状改善の早道である。便秘には器質性病変(大腸がんや大腸ポリープがあると腸管が狭くなって便秘が起こる。大腸憩室、子宮筋腫、肝臓がん、膵臓がんなども原因になる)が原因となっている場合もあるので、検査によってそれらの疾患の有無を確認することも重要である。病院に行かずに市販の便秘薬に頼る人も多いが「薬はどんなものにでも副作用があるのであくまでも薬はお手伝いであることを理解していただき、便秘になる原因を探って、できるだけ薬物から離脱するように勧めるようにしています」と、酒井医師は薬に頼り過ぎることに警鐘をならしている。

医師プロフィール

1965年 東京医科大学 卒業
1970年 東京医科大学大学院修了後、同大学内科入局
1973年 英国セントマークス病院に勤務
1981年 東邦大学医学部助教授に就任
1987年 同教授
2010年 学校法人東京医科大学 常任監事
2011年 湘南記念病院理事長