瀧井正人 医師 (たきいまさと)

九州大学病院

福岡県福岡市東区馬出3-1-1

  • 心療内科
  • 非常勤講師

心療内科 内科

専門

心身医学、摂食障害、糖尿病

瀧井正人

瀧井正人医師は、早くから摂食障害と糖尿病の関係に着目し専門的治療を実践。同院心療内科は、糖尿病(特に1型糖尿病)に併発した摂食障害を本格的に治療する世界的にも希少な施設で、全国から多くの患者が紹介受診する。2009年には15歳で両疾患を併発した患者の絵と瀧井医師の文による「糖尿病こころの絵物語」を出版。患者との往復書簡集「ひとりぼっちを抱きしめて」や、臨床経験を記した「糖尿病の心療内科的アプローチ」とともに病気に悩む人や医療関係者に愛読されている。

診療内容

摂食障害の特徴や同院の治療の特色などについて、瀧井医師に話をうかがった。
摂食障害とはどんな病気か「摂食障害は、近年先進国の若い女性の間で頻度が高くなっている、現代病ともいえる疾患です。いわゆる拒食症と呼ばれる神経性食欲不振症と、過食症と呼ばれる神経性大食症、それ以外の「特定不能の摂食障害」に大きく分類されます。神経性食欲不振症は、太ることに対する恐怖や痩せ願望から食事の量が極端に減るか、嘔吐や下剤を乱用するなどして体重が減り、元の体重に戻るのが非常に困難になっている状態です。国際基準では、標準体重のマイナス15%以上の痩せなどの項目で、摂食障害と確定診断されます。食べないので栄養失調になるほか、嘔吐や下剤の影響で脱力感や精神不安などに襲われることもあります。女性の場合は、無月経が起こります。一方、神経性大食症は、過食とそれによる体重増加を防ぐための嘔吐や下剤乱用などの排出行為、絶食、過活動などを頻繁に行うという状態で、痩せをともなわないことが神経性食欲不振症との最も明らかな違いです」(瀧井医師)
拒食症の人はなぜ回復不可能になるまで痩せてしまうのか。
「神経性食欲不振症の患者さんには、発症の前に挫折体験や社会にうまく適応できないという心理的な困難を経験している人が多いことが特徴です。困りごとを誰にも相談できずに悩んでいます。そして、こうした状態にあるときに、痩せることでそれまで低かった自己評価が高まったり、周りから優しくされたりほめられたりして、悩みから一時的にでも逃れられるという経験をします。つまり、食べずに痩せるという行動は、最初は人生を良い方向に進めることのように思えるわけで、周囲に「やめなさい」といわれても、やめられないのは、ある意味で当然ともいえるのです」(瀧井医師)
過食症はどういったきっかけで起こるのか。
「低い自己評価を高めるために痩せようとダイエットをする。その反動で、過食が始まって止まらなくなる。太ることを恐れて自己誘発性嘔吐などの排出行為を行う。こうした行為が自己評価をさらに下げ、ますます痩せることを求めてしまうというのが、よく知られている過食症のメカニズムです。ダイエットが原因で神経性食欲不振症になり、その後、過食から体重が増加して、過食症に転じる患者さんも少なくありません」(瀧井医師)
治療の基本方針を教えて「当科には、年間120~140人の摂食障害の患者さんが新たに受診され、常時20人以上の入院患者さんがおられます。国内で最大の摂食障害治療施設といえるでしょう。重症患者さんの割合が高く、全国から多くの患者さんが紹介受診されます。摂食障害は肥満恐怖や痩せ願望といった食事や体重に関する強いこだわりと、そこから起こる拒食や過食などの食行動異常、自己誘発性嘔吐や下剤の乱用などの問題行動が悪循環となって深刻化し、自分では逃れることができなくなっている状態です。慢性化しやすく、放置しておくと身体的な合併症や生命の危険の心配があるだけでなく、心理面や人生への悪影響は測り知れません。このため当科では、体重や食行動の問題の修正と、内面の成長を治療の両輪として、できるだけ早い時期に、可能な限り良い状態に回復させることを目指しています」(瀧井医師)
具体的な治療法は?「神経性食欲不振症は、軽症であれば外来治療も可能です。しかし、痩せ願望が強い重症例の場合は、入院治療が必要と考えられます。当科の入院治療では、体重や食行動の修正を目指す行動療法をベースにしながら、治療中に顕在化してくる心理的・行動的問題を逃さず取り上げ、面接などを通じて患者さんが自分自身を見つめ直すことができる治療を行っています。綿密な調査を実施した結果、入院治療により平均で9kg以上の体重増加があり、患者さんの退院数年後の予後は7割以上で良好であることが明らかになりました。一方、過食症の治療は、外来治療が中心です。病気のメカニズムの説明や食事、体重についての正しい情報の提供といった心理教育的な対応、 過食や排出行為についてのセルフモニターリングや、食事や体重についての誤った考え方の修正法など認知行動療法的な対応のほか、必要に応じて薬物療法などを行いながら、患者さんが自分自身の心理的問題に少しずつ取り組めるようにサポートします」(瀧井医師)
糖尿病と摂食障害を併発された患者が多いそうだが。
「過去20年近くの間に、心理社会的問題を抱えた1型糖尿病の患者さんが約250名、全国から紹介され受診されました。その中でも最も多いのは、摂食障害を併発している女性患者さんです(約170人)。1型糖尿病は、小児期・思春期・青年期といった若年期に発症することが多く、自己免疫的にすい臓のインスリン分泌細胞が破壊されて発症します。生命の維持のために、定期的なインスリン注射が生涯欠かせません。このように決して容易ではない病気を、精神的にまだ十分発達をとげていない若い時期に発症するので、心理的問題はより深刻となりがちで、心身両面からの手厚い治療が必要となります」(瀧井医師)
どういった治療をされるのか「遠方からの紹介患者さんが多いので、まずは1回だけ外来を受診していただき、カウンセリングを行います。これは糖尿病とともに生きていく患者さんの苦悩に共感し、負担を最大限軽減し、楽なセルフケア法をみつけてもらうことを主な目的としています。中には、この1回のカウンセリングだけで摂食障害が改善し、血糖コントロールも良好になる患者さんもおられます。改善が十分でない場合は、紹介医から再受診を勧められ、入院に同意された場合は入院治療となります。外来カウンセリングや入院治療を経ることで、多くの患者さんに心理面の成長、摂食障害や血糖コントロールなどの改善が得られます」(瀧井医師)

医師プロフィール

1977年3月 早稲田大学文学部 卒業
1987年3月 九州大学医学部卒業
1987年4月 九州大学病院心療内科入局