医学生こーたのひよっ子クリニック

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子宮頸がんワクチンは危険なのでしょうか

皆さんは、子宮頸(けい)がんワクチン(HPVワクチン)は重篤な副反応を生じる危険なワクチンだと思いますか。センセーショナルな報道やSNSの投稿などによって「危険なワクチン」と判断されている方も多いと思います。結論から申し上げると、さまざまな科学的研究で「ワクチンとワクチン接種後に現れる副作用とされている症状には、因果関係があるとはいえない」と決着がついています。

もちろん世界中で安全性が確認されているからといって、日本でも安全であるとは限りません。その可能性を検討するために日本人へのワクチン接種の安全性を調査した「名古屋スタディ」という研究があります。これは「全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会愛知支部」が出した要望書に名古屋市長が応え、鈴木貞夫氏を中心とした名古屋市立大学医学部公衆衛生学分野が実施。この研究でも「子宮頸がんワクチンの安全性への問題は認められない」と結論づけられました。

現在は国内外を問わず、WHOや日本産科婦人科学会、そしてノーベル賞を受賞された本庶佑氏など、多くの医療団体および関係者がワクチン接種の安全性と必要性を強調しています。しかし、「HPVワクチンは危険なワクチン」という誤った印象がまん延してしまった日本では、接種率が1%未満に低下しているのが現状です。現在の日本では子宮頸がんを毎年約1万人が発症し、約3千人が亡くなり続けています。

一方でごく少数ながら、かたくなにワクチンの危険性を主張する一部の研究者や団体も存在します。2019年1月、名古屋スタディの研究手法を批判する論文を、八重ゆかり氏と椿広計氏が「Japan Journal of Nursing Science」に発表しました。この論文は、鈴木氏の研究手法は誤っており、ワクチンと症状に一部関連があると結論づけています。

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しかし、この八重氏の論文にはさまざまな欠陥が見受けられます。副作用とされる症状が出た人の比率をワクチン接種者と非接種者で比較しているのですが、対象集団の調査期間について「ワクチン接種者は個人の初回接種時を起点に、非接種者は一律小学校6年生を起点に」しています。接種者の方が一律に期間が短いため、症状をおこすものが少なく、直接比較では実際のリスクより低い値が出ます。しかし、その後研究期間で調整することにより、リスクは上昇しています。このように、解析期間の不一致は、疫学研究にとって最も重要な比較妥当性の欠如を生じます。

また、論文の著者である八重氏は、薬害オンブズパースン会議のメンバーです。この会議の事務局長の水口真寿美氏がHPVワクチン薬害訴訟全国弁護団共同代表を務めているにもかかわらず、このことを明示せずに「利益相反=用語説明=がない」と論文に記載していることも問題です。

このように、当該論文は科学的妥当性を欠いているにもかかわらず、HPVワクチン薬害訴訟に関与する上記団体はこれを新たな根拠に「HPVワクチンの危険性」を主張し続けています。

WHOの機関である国際がん研究所は「HPVワクチンは安全で効果的である。子宮頸がんで毎年31万人が死亡している。このまま適切な予防が行われないと、2040年には47万人まで増加するだろう」と警鐘を鳴らしています。

ごく一部の方々が主張する科学的根拠に乏しい「HPVワクチンの危険性」を多くの人々が信じ、結果として子宮頸がんによって多くの人が亡くなっているという現在の日本の状況を野放しにして良いものでしょうか。国民全体で議論する必要のある問題だと私は考えています。(医学生・渡邉昂汰)

【用語説明】利益相反
同一人物の二つの異なる役割が、一方では利益となりながらも、他方では不利益となること。医学においては、科学的客観性の確保や患者および被験者の利益を保護するといった研究者の責任に不当な影響を与え、重大なリスクを生じうるような利害の対立状況のことを指す。論文を書く際には著者の立場や職責を、うそ偽りなく記載する必要がある。

参考文献
1 Sadao Suzuki.; Akihiro Hosono. No association between HPV vaccine and reportedpost-vaccination symptoms in Japanese young women: Results of the Nagoyastudy.Papillomavirus Research. 2018 January, Volume. 5, pages 96-103, doi:10.1016/j.pvr.2018.02.002.
2 Yukari Yaju.; Hiroe Tsubaki. Safety concerns with human papilloma virus immunization in Japan: Analysis and evaluation of Nagoya City’s surveillance data for adverse events.Japan Journal of Nursing Science. 2019 January, doi:10.1111/jjns.12252.
3 IARC. “HPV vaccination is safe, effective, and critical for eliminating cervical cancer”.https://www.iarc.fr/news-events/hpv-vaccination-is-safe-effective-and-criticalforeliminating-cervical-cancer/, (accessed 2019-02-15)