医学生こーたのひよっ子クリニック

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回り道をした人にしかできない医療

「人よりも苦労した分、より一層患者さんの気持ちに寄り添える医師になりたいと思います」-。 東京医科大学の裏口入学および不公平入試が発覚して3カ月がたった。論ずるに値しない裏口入学とは対照的に、女性や多浪生(用語説明1)そして再受験生(用語説明2)への減点が行われていた不公平に関して、さまざまな社会的立場の人々が意見し、議論を深めている。その中で性差による不平等に比べて年齢に基づく差別はあまり問題視されていない。医学部受験の予備校講師も務めている立場からすると、多浪生や再受験生に対する不公平に関しても忘れてほしくない。

多浪生や再受験生が敬遠される理由として、「医師として働ける時間が短いから医療の損失になる」「医師としての素質が低い」という声をよく聞く。私はそうとは全く思わない。多浪生や再受験生は医師になるのが遅くなる代わりに、紆余(うよ)曲折によってでしか得られないアドバンテージもあるからだ。

多浪生そして再受験生の苦労は計り知れない。同級生たちが、大学の勉強や仕事に懸命に取り組みプライベートも充実させている中、毎日机の前に座って受験勉強を淡々とこなすのだ。面談中に「出口の見えないトンネルを進んでいるような感覚です」と、涙を流す生徒を何人もみた。

そんな生徒たちにも努力が実る日が来る。そして長い浪人生活を終えて合格した時には、必ずといっていいほど、このコラムの冒頭のような力強い言葉を伝えてくれる。

そんな過去の生徒たちといまだによく会うが、学業優秀はもちろんのこと、医療ボランティアなどプラスアルファの活動をしてくれている人が多い。講師冥利(みょうり)に尽きるとはこのことだ。

「その人だからできる医療」というものがあると私は考えている。「回り道をした人にしかできない医療」もまたあるのではないだろうか。多様性を認めなくてはならない時代に逆行した不公平入試にメリットはない。公平かつ公正な受験が今後行われ、教育の平等性が保たれることを切に願う。

【用語説明】
(1)多浪生=2年以上の浪人生活を送っている人
(2)再受験生=学生や社会人を経て、もう一度大学を受験する人