多重がん

■多重がんとは
 多重がんとは、同一の患者に独立してがんが複数発生した場合をいいます。転移あるいは再発は含まれません。一般的に、同一の臓器に多重がんが発生したときに多発がん、異なる臓器に発生したときに重複がんと呼びます。がん発生の順序により、一次がん、二次がん、三次がん……と呼ばれます。
 多重がんの定義は、1932年にワレンとゲーツによりなされており、1.それぞれの腫瘍ががんと確定診断されていること、2.それぞれのがんが離れて存在していること、3.一方のがんが他方のがんの転移ではないこと、の3点があげられています。
 最近のがん治療の進歩により、がんになっても治ったり、それ以上悪くなったりしないケースが多くなってきました。1回がんに罹患(りかん)した人は、環境の関与やその人が本来もっている素因などによって、もう1回がんに罹患することがふえてきています。このようなことから、多重がんの現状を知っておくことは、次に備えるという意味からもとても大切なことといえます。
 多重がんの発生原因として、環境の関与によるもの、個体の素因によるもの、一次がんの治療に関係するものがあります。これら3因子の1つが多重がん発生に単独で関与している場合もありますが、相互に関与することもあります。たとえば、個体の素因によるものは厳密には遺伝性疾患によるものを指しますが、がん発生には環境因子が密接に関与し、両者の間を明確に区別することが困難な場合があげられます。
 環境因子の関与によるものの例として、喫煙あるいは摂取食物により発生するがんがあげられ、肺がん、喉頭がん、食道がん、口腔(こうくう)がん、咽頭がんなどが代表的なものです。
 個体の素因が関与するものの例として、多発性皮膚がんや成人T細胞白血病などがあげられます。素因ならびに環境因子が関与する例として、ホルモン動態あるいは食習慣が関与しているとされている大腸がん、子宮体がん、乳がん、卵巣がんなどがあります。
 一次がんの治療に関係するものの例として、放射線療法あるいは化学療法に関係する二次がんがあげられます。放射線療法後の二次がん発生の例として、子宮頸(けい)がん治療後の直腸がん、子宮体がん治療後の白血病、乳がん治療後の肉腫や食道がんがあげられます。
 化学療法後の二次がん発生の例としては、ホジキンリンパ腫(悪性リンパ腫)治療後の白血病、多発性骨髄腫、あるいは乳がん、卵巣がん治療後の非リンパ性白血病などです。

■多重がんの頻度と発生臓器
 剖検例から多重がんの頻度をみると、「日本病理剖検輯報(ぼうけんしゅうほう)」がはじめて刊行された1958年の報告では悪性腫瘍に占める多重がんの割合は0.6%でした。その後しだいに増加し、69年には1.5%、87年には10%、2005年には18.5%、14年には20%を超える値となっています。また、多重がんの割合は男性に多く、女性の約1.5倍の頻度です。
 「日本病理剖検輯報」第51輯(2008年)から第57輯(2014年)の年度別症例集計表をまとめますと、多重がんの第一次発生臓器としては、気管支・肺がもっとも多く、ついで肝・肝内胆管、胃、骨髄、リンパ節、膵、前立腺の順となっています。

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●多重がんにおける第一次臓器の例数および頻度(%)
第一次臓器例数頻度(%)*
1気管支・肺1,80816.8
2 肝・肝内胆管9448.8
3 8888.2
4 骨髄753 7.0
5 リンパ節531 4.9
6 469 4.4
7 前立腺307 2.8
8 食道291 2.7
9 直腸193 1.8
10S状結腸1921.8
111661.5
12膀胱1491.4
13乳腺1451.3
*多重がん総数10,774例中の頻度
「日本病理剖検輯報」第51~57輯(2008年~2014年)のデータより作成


 第二次がんの発生を早期に発見したり、あるいは予防したりする観点からは、第一次がんの症例数に占める第二次がん発生症例数、すなわち第二次がんの発生頻度の高低を知る必要があります。たとえば、第一次がんが気管支・肺の場合、第二次がんの発生臓器を頻度の高い順に列挙すると、前立腺、胃、甲状腺、腎、肝・肝内胆管となります。同様に、第一次がんが肝・肝内胆管の場合ですと、第二次がんの発生頻度順は、前立腺、胃、気管支・肺、甲状腺、直腸となります。また、第一次がんが胃の場合ですと、第二次がんは、前立腺、甲状腺、気管支・肺、S状結腸、直腸の順となります。ただし、甲状腺と前立腺については剖検(病死後の解剖)時にはじめて発見されるような、命にかかわらない潜在がんががん総数の50%以上含まれているため、臨床で発見される第二次がんとしては、より低い順位となります。
 このように多重がんの発生頻度は増加しており、まずがんを発見・治療したら常に第二あるいは第三のがんの発生を考えておくことが重要です。これはがんに罹患した人がそれだけで第二次がん発生のハイリスクグループといえるからです。したがって、第一次がん治療後の第二次がんの早期発見が重要となってきます。第一次がん発生臓器により第二次がん発生臓器の頻度の高いものを念頭に置いた検査が進められる必要があります。
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