慢性疲労症候群〔まんせいひろうしょうこうぐん〕

 慢性疲労症候群という病名が知られるようになったのは比較的最近のことです。アメリカで1980年代中ごろに「だるさ」を主症状とするこの病気が注目されるようになって以来、世界中で知られるようになりました。しかし歴史的にはこれと類似した病気はすでに古くからあり、多くの名前で呼ばれていました。ですから慢性疲労症候群のことを「新しいボトルに入った古いワイン」という人もいます。わが国でも91年に厚生省(現・厚生労働省)に慢性疲労症候群に関する研究班ができて研究がおこなわれています。
 慢性疲労症候群の症状は非常に多彩です。多種多様な症状が出現するだけに診断もむずかしいものです。この病気に特異的な身体所見や臨床検査成績はいまのところ見つかっていません。それがこの病気の診断をさらにむずかしくしています。
 慢性疲労症候群を診断するためには厚労省研究班のつくった診断基準があります。基準は前提ⅠからⅢの3項目を満たすことが前提です。前提Ⅰは、6カ月以上続く(あるいは再発をくり返す)激しい「だるさ」です。そして、ほかに病気をもっていないことです。ほかに病気がある場合は慢性疲労症候群とは診断せず、その病気をさきに治します。
 前提Ⅱでは、慢性疲労の原因が不明だが全身倦怠感は新しく起こったものであり、症状が現れた時期が明確で、十分な休養をとっても回復しないこと、さらに仕事や生活習慣のせいではなく、疲労のため月に数日は社会生活や仕事ができずに休んでしまうことです。
 前提Ⅲには自覚症状と医師がみとめる診察所見があわせて10項目あり、そのうちの5項目以上がみとめられると前提条件Ⅲを満たしたことになります。自覚症状は労作後の疲労感、筋肉痛、多発性関節痛(腫脹はない)、頭痛、咽頭痛、睡眠障害、思考力・集中力低下の7項目です。医師がみとめる診察所見としては、微熱、頸(けい)部リンパ節腫脹、筋力低下の3項目です。このうち微熱、咽頭痛、頸部リンパ管腫大などは上気道感染症を思わせます。微熱、筋肉痛、関節痛など膠原(こうげん)病を思わせる症状もみられます。
 特に問題となるのが精神症状です。筆者らの調査でも慢性疲労症候群の約85%にうつ状態、思考力低下、集中力低下、睡眠障害などがみられました。
 慢性疲労症候群の原因は不明です。これまでにウイルス感染、免疫異常、内分泌・代謝異常、心身症的要因、脳機能障害など、いろいろな原因があげられていますが、どれも決め手はありません。
 疫学的には女性に多く、年齢も20~50歳代に多いようですが、どの年齢層にもみられます。最近、不登校児のなかにこの病気の患者が紛れているかもしれないという研究者もいます。
 慢性疲労症候群の治療は、原因が不明であるだけにいまだに有効な方法が確立されていません。対症療法が主体となります。精神症状に対しては、抗不安薬、抗うつ薬などが用いられます。しかし「だるさ」を治すことはむずかしく、これには心身両面の休養がもっとも大切です。
 慢性疲労症候群は死ぬような恐ろしい病気ではけっしてありません。ただ経過が長く、軽快と再燃をくり返すこともあるので、周囲の人の理解と協力が必要です。
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