くびにあらわれるおもな症状 家庭の医学

解説
 くびにあらわれるおもな症状としては、痛み、はれ、しこり、くびが曲がるなどの症状があります。

■痛み
 くびの痛みは大きく4つに分けられます。
□じっとしていても痛い
 これは神経が原因の場合と、炎症や腫瘍による場合が考えられます。神経の場合は、頸椎(けいつい:脊椎〈せきつい〉のくびの部分)の病気や、くびの筋肉のこりが原因のことが多く、おもにくびのうしろに痛みが出ます。頸椎に病気がある場合、手足のしびれも出ることがあります。炎症の場合は、痛みの部位のはれや熱感を伴います。腫瘍の場合は、はれやしこりとして触れます。
□曲げると痛い、痛くて曲がらない
 多くの場合、頸椎の病気が原因と考えられます。朝起きたらくびが痛くて曲がらないといった場合は、いわゆる寝ちがえで、安静にしていれば3~4日で改善します。しかし、症状が続いたり、手足のしびれなどがあれば整形外科などを受診したほうがよいでしょう。
□さわると痛い、押すと痛い
 くびの表面をさわったり、押すだけで痛い場合は、多くは皮膚・皮下などの比較的浅い部分の炎症であることが多く、皮膚の病気(廱〈よう〉、炎症性粉瘤など)がまず疑われます。これらの疾患は、形成外科や皮膚科を受診されることをおすすめします。
□飲み込むと痛い
 これはくびといっても、のどの奥、咽頭(いんとう)や食道の疾患が考えられます。神経痛、炎症や腫瘍が原因となりえますが、早めの耳鼻科受診がよいでしょう。

■はれ、しこり
 くびのはれやしこりは、リンパ節や顎下腺(がくかせん)、甲状腺などの病気が原因となることが多く、急にはれたり、痛みを伴うときは急性の炎症です。あごの下なら顎下腺やリンパ節、くびの正中なら甲状腺の病気を疑います。甲状腺の急性炎症は、はれ、痛み、嚥下(えんげ)時痛を伴います。食事の際、あごの下がはれたり、痛みを伴うようなら、唾石(だせき)症を疑います。顎下腺や甲状腺に生じた腫瘍もはれやしこりとしてあらわれますが、痛みを伴わないのがふつうです。くびのリンパ節はむし歯や扁桃(へんとう)の炎症、かぜをひいたときでもはれることがありますが、一時的です。
 またリンパ節のはれは、結核やがんの転移などで起こることもあります。しこりやはれが続くようなら、医師の診察を受けたほうがよいでしょう。そのほかくびのしこりとして、正中頸嚢胞(せいちゅうけいのうほう)、側頸嚢胞があります。これらはやわらかいかたまりで、時に粘液を分泌します。また粉瘤などの皮膚の腫瘤、脂肪腫、神経腫などでも、はれやしこりが起こります。

■くびが曲がる
 くびが曲がるのは斜頸(しゃけい)といわれ、生まれつきやさまざまな病気が原因となります。代表的なものに筋性斜頸、リンパ性斜頸、眼性斜頸、痙性(けいせい)斜頸などがあります。
 筋性斜頸は、くびの筋肉の短縮により生じる先天性の斜頸です。リンパ性斜頸は、リンパ節の炎症が原因でくびが曲がった状態になります。小児の扁桃腺炎などの炎症性疾患のあとに起こることがあります。
 眼性斜頸は、眼球運動のまひのある患者が、物が二重に見えるのを避けるためにくびが曲がる状態をいいます。
 痙性斜頸は、くびや肩の筋肉が自分の意思に関係なく収縮し、頭、くび、肩などが不自然な姿勢を示す病気です。30~50歳代に発症することが多く、わが国では男性のほうが多いといわれています。原因の多くは不明です。症状が軽度の場合、自然に治ることもあります。治療としては、手術や理学療法などもおこなわれますが、ボツリヌス菌から得たボツリヌス毒素(といっても毒ではありません)を用いる方法が保険適用であり、各国のガイドラインでは第一選択とされています。

(執筆・監修:埼玉医科大学 名誉教授 中塚 貴志)