医学部トップインタビュー

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基礎と臨床がバランスよく一体化 ~チャレンジする学生を全力で応援―慶應義塾大学医学部~

 慶應義塾大学は1858年に福澤諭吉が江戸に開いた蘭学塾を前身とし、1917年、世界的な細菌学者として知られる北里柴三郎博士を初代医学科長として慶應義塾大学部医学科が設立された。20年に医学部に改組し、病院も開設。福澤諭吉の「実学の精神、独立自尊、半学半教の精神」に加え、北里柴三郎博士の「基礎・臨床一体型医学・医療の実現」を理念として受け継いでいる。金井隆典医学部長は「学生が自ら企画して、さまざまなことにチャレンジすることが盛んで、大学は学生を全力で応援します。海外留学する学生も多く、卒業後は世界中に活躍できるチャンスが広がっています」と話す。

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 ◇学生一人ひとりの多様性を重視

 慶應義塾大学医学部の特徴は、基礎と臨床がバランスよく行われ、それぞれが双方向性を持つことにある。真理を探究する基礎医学を臨床で患者に応用し、臨床で得たヒントを基に、さらに基礎研究を深めていくというのが建学の精神である「基礎・臨床一体型医学・医療の実現」が目指すものだ。

 金井医学部長は「慶應は臨床重視のイメージを持たれがちですが、驚くほど基礎医学にも力を入れています。いつかノーベル賞を取るような研究者を輩出するのが悲願です」と話す。

 その精神はカリキュラムにも反映され、1989年から実施している自主学習プログラムでは、3年生の約4か月間(7~10月)、学生全員が自分で研究テーマを決めて、研究室で研究を行う。

 「中には6年生まで継続して、最終的に学生が書いたとは思えないような英語の論文にまとめる学生もいます。将来的にはもっと期間を長くしたり、海外で研究ができたりするようにしたいと思います」

 学生一人ひとりの多様性を重んじ、才能を伸ばすための医学教育改革が進められている。

 ◇働き方改革にもつながるAIは積極的な活用を

 大学病院は、内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム」の「AIホスピタルによる高度診療・治療システム」事業に採択され、さまざまなプロジェクトに取り組んでいる。

 入院患者のリアルタイムモニタリングシステムやAIカメラを用いた外来・待合の混雑監視、AI自走車いすを用いた患者の搬送システム、AI自動搬送ロボットを用いた薬剤・検体自動搬送システムなど、患者に役立つAIホスピタルの構築を進めている。

 「AIの活用に関しては、例えば『ChatGPTを使うと考える力が育たない』などの意見もありますが、電卓が便利になってそろばんを使わなくなるのと同じで、便利なものはどんどん使って、上手な使い方を覚えさせることが大事だと思います。病院のタスクシフトという点でも活用できますし、患者さんに役立つ新しいシステムの開発も次々と進めています」

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 ◇盛んなクラブ活動、海外での医療活動を企画する学生も

 学生生活ではクラブ活動、とりわけスポーツが盛んだという。私立最難関だからといって、勉強一色というわけでもないようだ。

 「意外に思われるかもしれませんが、医学部に入ると、みな何らかのクラブ活動に熱心に取り組みます。心身ともに鍛えられ、人間関係を通してコミュニケーション力も身に付きます」

 5年生の冬、国家試験の勉強が始まろうというときに海外で行う臨床実習があり、2023年度は47人を米国はじめ9カ国に派遣する。

 また、課外活動の一環として、南米やアフリカ、アジア諸国の医療事情を学ぶ活動もある。6年生の7~8月、夏休みのさなか、ブラジルに現地の医療活動を学びに行くという。

 「講義だけでは物足りずに、自ら企画して海外に出掛けていく学生たちが非常に多い。学生たちの冒険心をあおって、人間力を付けさせようというのが私たちの伝統です」

 ◇心根の優しさがあれば頑張れる

 「医師の資質で最も大切なのは頭の良さではなく、心根の優しい人であること」と金井医学部長は言い切る。それは必ずしも、患者のためというだけではない。

 「『苦しんでいる人たちを治したい』『社会復帰してもらいたい』という目標があれば、つらい実習や国家試験の勉強も乗り越えられます。『お金がほしい』『有名になりたい』というモチベーションでは、こんな大変な職業は長続きしないと思いますし、もし続けられたとしても、本人が楽しくないのではないかと思います」

 本当に心根の優しい人間であるかどうかは、面接試験での学生の受け答えから、ある程度察しが付くという。面接のトレーニングでは対応し切れないところに、面接官は目を光らせる。

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