7月に過激派組織「イスラム国」(IS)から解放されたイラク北部モスルでは、暴力で支配してきたISに対する住民の敵意が、平等な医療提供を目指す国際支援活動の障害となった。モスル西部に救急医として派遣されていた大阪赤十字病院の渡瀬淳一郎さん(50)が今月5日の帰国後、現地の実情を報告し、「武装勢力側の患者や家族への対応は非常に困難だった」と明かした。
 渡瀬さんが現地入りしたのは8月16日。直後にイラク部隊によるモスル西方約80キロのタルアファル奪還作戦が始まり、病院には戦闘やモスル市内に残された地雷による負傷者らが絶えず運ばれてきた。
 病院ではイラク部隊側とIS側双方の患者を受け入れていたが、渡瀬さんは「圧倒的な数のモスル市民がいる場所で、武装勢力側の患者の入院治療を安全に行うことは残念ながらできなかった」と振り返る。渡瀬さんら外国人スタッフが帰宅している夜間に、入院中のIS側の患者が襲われる可能性があるからだ。
 実際、ISのメンバーの子供や母親が夜間に運ばれて来た際、治療らしい治療がされない状態で朝まで放置されていることがほとんどだったという。公平な医療を志す渡瀬さんらと、ISを憎悪する地元の人たちとの間には、埋め難い溝があった。
 「現実の難しさを経験した」と渡瀬さん。紛争地域で中立性を維持し、すべての患者の安全を確保するのは容易ではないと指摘し、「赤十字のみならず、(医療支援活動に当たる国際組織の)関係者全体がしっかり考えていかなければならない課題だ」と強調した。 (C)時事通信社