国際緊急医療援助団体「国境なき医師団(MSF)」のジョアンヌ・リュー会長が「リビアの惨状に目を向けてほしい」と訴えている。アフリカ全土からリビアに集まる移民が、リビア各地の武装勢力や犯罪組織に捕らえられては監禁され、人質として親族が身代金を払う例が後を絶たないからだ。監禁中は女性なら性暴力の対象となり、男性は拷問にさらされる。8~9月、現地を視察した会長は「ここまで残酷なことができるのかと驚いた。世界の助けが必要だ」と強調した。
 東京都内で時事通信の取材に応じた。アフリカでは比較的人口が少ない産油国リビアは2011年に最高指導者カダフィ大佐が殺害されるまで、アフリカ大陸では突出した豊かな国で、店員、家政婦、庭師、料理人とさまざまな働き口があった。貧しいアフリカの国々では「とにかくリビアへ行けばどうにかなる」と語られ続け、今も移民が集まる背景となっている。
 しかし、現在のリビアには、全土を統治できる「まともな政府」が存在しない。「各武装勢力がそれぞれの縄張りの街を支配している」のが現状で、MSFも対象地を支配する武装勢力と交渉の上で医療支援を行っている。「武装勢力によって言うことが違うから、治療できる範囲も地域ごとに異なってしまう」と会長は語り、十分な支援がなかなか行えずもどかしい。
 こうした無政府状態で、アフリカからの移民を「捕らえて拷問し、家族に連絡させて金を送るよう要求する犯罪集団のビジネス」が横行している。MSFが支援する首都トリポリの病院に保護されたナイジェリア出身の女性が会長にこう説明した。「家政婦をしていたら突然、覆面の男たちが銃を手に入ってきて拉致された。2週間監禁され、夫に金を送るよう要求させられ続けたが、夫に金がないと分かると道に放り出された」。監禁先には似たような境遇の女性たちが「40人はいた」と訴えたという。
 道に放り出されたこの女性は、今度は街を支配する「当局」を名乗る武装勢力に拘束。「不法移民だ」と言われ「拘置所」と呼ばれる収容所に連行された。何百人もいる倉庫に詰め込まれ、座ることもできない。女性は換気も水もない中で倒れ、ようやく病院に引き取られた。
 11月には米CNNテレビは、こうしたリビアのアフリカ移民たちを、競売にかけては売り飛ばしているとみられる映像を放映した。「奴隷市場」のような映像は欧米で反響を呼んだ。
 欧州各国は、地中海を渡り欧州を目指す移民を阻止するため「リビア当局」による取り締まり強化を支援中。だが、それがアフリカ移民の人権侵害に拍車を掛ける結果になり、難しい立場に立たされているのが現実だ。
 会長は「この暴力の連鎖から逃れようと(リビアから)ボートに乗って欧州に向かうのは移民のごく一部にすぎない」と強調。一方で「目をそらして視界から消しても、彼らの存在は消えない」と語り、アフリカ移民問題を直視するよう世界に訴えた。

 ◇ジョアンヌ・リュー氏略歴
 ジョアンヌ・リュー氏 65年11月、カナダ西部ケベックシティー生まれの中国系カナダ人。ケベック州モントリオールのマギル大医学部卒。小児科医となり、96年から国境なき医師団(MSF)に参加。13年にMSF会長となり、14年のエボラ出血熱感染拡大や、15年のアフガニスタン北部クンドゥズで起きた米軍によるMSFの病院空爆といった難題に取り組んできた。16年に再選された。 (C)時事通信社