歩く姿で個人を識別する「歩容認証」という技術が、犯罪捜査の現場に浸透している。親しい人なら顔が見えないほど遠くからでもそうだと分かるように、距離が離れていたり、解像度が低かったりする映像でも判別しやすいのが利点だ。最近では、人工知能(AI)を活用し精度を高める研究も進んでいる。
 昨年4月、白昼に東京・銀座で起きた少年らによる路上強盗事件。金塊を換金した直後の男性が体当たりされてバッグを奪われ、約4000万円が持ち去られた。関係者によると、捜査では都内を中心に約740台の防犯カメラを回収。最終的に男4人を逮捕したが、このうちマスクやヘルメットで顔を隠していた実行役3人の特定に、歩容認証が一役買った。
 日本画像認識協会理事の山内寛紀立命館大名誉教授によると、歩容認証は「なりすましができず、自然に癖が出るのが特長」といい、顔や着衣と組み合わせて判別に用いる。捜査機関の依頼で鑑定を行う場合、外部に流出しないようインターネットから隔離し、対象者以外に映り込んだ人のプライバシー保護には万全を期すという。
 警察庁の科学警察研究所は2013年に歩容認証システムを試験導入し、これまで約60件の鑑定を実施。裁判で証拠の一つとして採用されるなど効果を挙げている。
 システムを開発した大阪大産業科学研究所の八木康史教授は、映像の中で歩く方向が正面と真横など90度異なる場合でもそのまま比較し、約96%の確率で同一人物かどうか判断する技術も新たに開発。昨年11月に発表した。
 歩く向きが大きく違うと比較が難しかったが、AIが大量のデータを学習し、自動的に物事を認識する「深層学習」と呼ばれる手法を導入。幅広い年齢の約1万人分の歩き姿のデータを読み込ませて学習させ、比較すべき抽象的な特徴を自ら選ぶことで、90度違う場合でも誤る確率は約9分の1に下がったという。
 八木教授は、新技術を応用し、東京五輪など大規模イベントの際、広域の映像からあらかじめ歩き姿を登録したテロ容疑者を捜すといった監視システムの構築にも期待を寄せるほか、「将来的には歩き姿から健康度を読み取る医療分野にも応用したい」と話している。 (C)時事通信社