甚大な被害をもたらした東日本大震災と東京電力福島第1原発事故から7年半。原発事故による避難指示の解除が進む中、福島第1原発周辺で再開した医療機関の約7割が赤字だ。避難解除区域の住民居住率が事故前の2割未満にとどまり、患者数が激減する一方、高騰する医療従事者の人件費が経営を圧迫している。
 昨年4月に避難指示が解除された福島県富岡町の診療所「富岡中央医院」。1日当たりの患者数は震災前と比べ約10分の1まで減り、井坂晶理事長(78)は「財政支援がなければやっていけない」と語る。
 県によると、第1原発周辺12市町村の医療機関は、震災前は100カ所だったが、今年8月末現在では31カ所。井坂理事長は避難区域での医療体制について、「需要と供給の関係を頭に置いて(医療環境を)構成していかなければいけない」と指摘した。
 復興庁や自治体が行った住民意向調査では、医療環境の充足を望む意見が多い。生活に必要なものとして「医療機関の拡充」を挙げた世帯は、富岡町で68.5%、浪江町で78.7%に上る(複数回答可)。避難者も、医療・介護などの再開状況を帰還するかどうかの判断条件に挙げる声が強い。
 しかし、再開した医療機関の約7割は単独での経営が成り立たず、人件費・運営費の支援を受けている。原発事故に伴う避難で医療従事者が流出し、給料や待遇をより良くしないと人材を確保できない上、居住率の低迷で患者数も少なく、人件費のコストを回収できないためだ。
 避難指示が解除された地域は高齢者が多く、今後、在宅医療やリハビリなどのニーズも高まることが想定されている。井坂理事長は「昔は2世代、3世代が協力し合っていたが、今はちりぢりばらばら。年寄りを誰が見守るのかは、今後の大きな問題だ」と懸念する。
 福島県は、24時間対応の救急病院を富岡町に新設したほか、再開する医療機関に補助金を出すなど支援を続ける。県地域医療課の担当者は「患者が少ないことは予測済みで、どうやって経営を安定化していくかが課題だ」と語り、被災事業者の自立を支援する官民合同チームの力を借りながら対応を進めていく考えを示した。 (C)時事通信社