ハンセン病患者の隔離政策で家族も差別などの被害を受けたとして、元患者の家族561人が国に謝罪と1人当たり550万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が28日、熊本地裁で言い渡される。父が患者だった福岡市の50代女性は「生き地獄の日々だった」と偏見に苦しんだ過去を忘れられず、周囲に父の病気を隠し続けている。
 「本当は顔も名前も出して訴えたい。でも、母やきょうだいに迷惑が掛かる」。原告番号190番の女性は、ハンセン病に対する差別や偏見がなくなったとは思えず、境遇を隠しながら生きている。多くの傍聴人が集まる裁判所や原告集会には一度も足を運べていない。
 両親は鹿児島県出身だったが、父がハンセン病にかかると差別に耐えきれず熊本県に。国立療養所「菊池恵楓園」に入所した父は、病気で曲がった左手をポケットに突っ込みいつも隠していた。
 女性は恵楓園近くの小学校に通ったが、「言葉すら掛けられず無視された。そこに私がいないかのようだった」。唯一友達と呼べる隣家の子供が自宅に遊びに来ても、すぐに親が連れ戻しに来た。
 30歳で結婚。夫には父の病気を伝えたが、親族には一切話さなかった。子供にも父の病気や裁判について話していない。
 患者の隔離政策は2001年の熊本地裁判決で違憲と判断され、国は元患者らに補償金を支払った。家族が訴えた今回の裁判で、国は既に差別偏見は除去されたと主張している。
 しかし、原告の大半は匿名で、昨年5月にあった女性の母の本人尋問も非公開で行われた。「迷惑を掛けるといけない」と誰にも明かさず、証言したことは女性も最近まで知らなかったという。
 「常に見えない壁があり、生き地獄のような日々を過ごした。国は誤りを認めて謝ってほしい」と女性は訴える。「今でもつらい思いをしているから家族は表に出られない」。判決は福岡の自宅で見守る。 (C)時事通信社