安倍晋三首相は9日、ハンセン病元患者家族への差別に対する国の責任を認めた6月の熊本地裁判決を受け入れ、控訴を見送ると表明した。これにより、国に計約3億7600万円の賠償を命じた同判決が確定する。首相の判断を受け、政府は原告以外の元患者家族の救済方法、同種訴訟の扱いを含め、具体的な対応の検討に着手した。原告団は控訴見送りを歓迎した。
 首相は9日の閣議前に根本匠厚生労働相や山下貴司法相と首相官邸で協議し、控訴を見送るよう指示。この後、記者団に「判決に受け入れ難い点があることも事実だ。しかし、筆舌に尽くし難い経験をされた家族の皆さまの苦労をこれ以上長引かせるわけにはいかない」と指摘し、「異例ではあるが、控訴しないこととした」と表明した。
 厚労相は記者会見で「判決は消滅時効の起算点が極めて特異。通常は控訴せざるを得ない」としつつ、「早急に具体的な対応を検討したい」と語った。法相も「至急準備を進めていきたい」と述べた。
 政府は首相の判断を踏まえ、政府声明を発表する方向で調整している。
 熊本地裁判決の控訴期限は12日。厚労省や法務省では控訴は不可避との声も強かった。首相は21日投開票の参院選への影響も考慮して決断したのではないかとの見方も出ている。
 原告団長の林力さん(94)は記者会見で「正直言って当然だがほっとしている」と語った。訴訟の原告は全国に住む20~90代の元患者家族561人。熊本地裁は6月28日、ハンセン病患者の隔離政策が家族への差別も助長し、就学拒否や結婚差別など「人生被害」を生んだとして、原告1人当たり33万~143万円を支払うよう国に命じた。
 ハンセン病をめぐっては、小泉純一郎首相(当時)が2001年、元患者らへの賠償を命じた熊本地裁判決を受けて控訴を断念。訴訟への参加・不参加にかかわらず、患者・元患者全員の被害を補償する措置を講じたが、家族は対象外だった。 (C)時事通信社