暴力団「マラス」の恐怖支配から逃げるため米国を目指す移民集団「キャラバン」が後を絶たない中米ホンジュラスで、沖縄県南風原町出身の助産師、國吉悠貴さん(30)が国際医療団体「国境なき医師団(MSF)」から派遣され活動している。産婦人科施設を再建中だが、キャラバンは日常風景で、出産が近いのに加わる母親も多い。「妊娠中や小さい子を連れていると(同情から)国境を越えやすいらしい」と表情を曇らせた。
 一時帰国した19日、東京都内で取材に応じた。ホンジュラス北部チョロマで活動を始めたのは昨年11月。ただ、チョロマは治安が悪くて暮らせない。隣接するサンペドロスラで寝起きし、朝6時すぎに専用バスに乗りチョロマに通っている。サンペドロスラも「世界最悪級」と評される殺人多発都市で、暮らすのは周囲2キロを塀と警備員に囲まれ、入り口で検問を受ける特別な住宅地だ。
 15年ほど前、国際協力機構(JICA)が建設しながら、ホンジュラス保健省に運営を任せた結果、ほぼ機能不全に陥っていた産科施設に通う。内科医や産婦人科医らを束ね、妊婦健診から出産、乳児検診まで、徐々に機能を取り戻しつつある。ただ、MSF撤退後も続けられるようにしなければならない。現状は「いなくなったら、やっていけないだろうな」という状況で先は長い。
 「月に1、2回『この国に殺される』前に何月何日に公園に集合して国を出ようとビラが配られ、フェイスブックで普通に告知される」のがキャラバンだ。MSFの現地スタッフからも「辞めて米国に行く」と言われた。
 「米国に行きたいから『妊娠の証明書を出して』と言われ、衝撃を受けている」と國吉さん。途中で性暴力被害に遭う女性も少なくない。打ちひしがれて戻ってきて妊娠やエイズウイルス(HIV)感染が判明する。
 國吉さんはかつて、青年海外協力隊員として、ホンジュラスの隣国エルサルバドルで2年間暮らした。そこも性暴力は多かった。「泣いているのに、中絶は違法と看護師が軽く伝え『神が助けてくれるから』と何の助けにもならないことを言う」光景を見てきた。「不完全燃焼だった。中米にずっと帰りたいと思ってきた」と振り返る。
 10月にはチョロマに帰る。次の任務は、チョロマ一帯に展開するNGOや村々の「産婆役の女性」たちと連携し、性暴力被害者を早期発見して被害から72時間以内にHIV予防薬と緊急避妊薬を服用できる体制を築くことだ。
 ホンジュラスでは警察への信頼が低い。「被害女性が警察に行けない。行き着く先は、信頼できる村の『産婆役の女性』たち。そこで私たちが探している被害者をキャッチする」とネットワーク作りを進めている。 (C)時事通信社