新型コロナウイルスによる肺炎が広がる中国・武漢市から29日、在留邦人の第1陣が帰国した。民間のチャーター機を使った帰国支援は首相官邸が主導。安倍晋三首相は「桜を見る会」をめぐる問題などで守勢に立たされており、危機管理を最優先する姿勢のアピールによって政権浮揚につなげる意図も透けて見える。
 「政府の最大の使命は国民の生命を守ることだ」。首相は29日の参院予算委員会でこう語り、邦人退避や感染拡大防止に全力を挙げる方針を強調した。自民党の世耕弘成参院幹事長は記者会見で「政府はスピーディーに対応している」と評価した。
 政府関係者によると、武漢市が23日に事実上封鎖されて以降、在留邦人から「医療への不安」などを訴える声が外務省に寄せられた。しかし、政府の反応は鈍かった。首相官邸で24日に開かれた会議では邦人対応も話し合われたが、外務省は明確な方針を示せなかった。その後、現地の日本貿易振興機構(ジェトロ)から官邸に情報が入るにつれ、首相は危機感を強めた。26日の日曜日、外務、厚生労働両省幹部らを首相公邸に呼び、邦人の早期帰国に向けた検討を指示。こうした方針を同日、自ら記者団に説明した。
 政府内では、民間チャーター2機、政府専用2機の計4機を順次派遣する計画がいったん固まった。しかし、自衛隊機である政府専用機の乗り入れには中国側が難色を示したとされ、28日午前に予定していた第1陣の出発は夜にずれ込んだ。
 外務省幹部は「『希望者全員を帰国させる』との首相方針の下、本当に大変なオペレーション(作戦)を遂行している」と話す。ただ、ある経済官庁幹部は「外務省は腰が重かった。官邸にせかされて動きだした」と初動の遅れを認めた。
 立憲民主党の安住淳国対委員長は29日、「政府の対応は後手後手」と批判。別の立憲幹部は、感染が疑われる帰国者の隔離が必要だと指摘し、「それができずに感染が広がったら、政府の責任が問われる」と語った。 (C)時事通信社