新型コロナウイルスによる肺炎が広がる中国湖北省から在留邦人が政府チャーター機で続々と帰国する中、政府が帰国者からの感染拡大をどう防ぐかに苦慮している。帰国者の人権に配慮して強制措置を限定した態勢を急ごしらえしたものの、帰国者の一部が検査を拒むなど、感染拡大防止策への不安が次々と顕在化しているためだ。
 「2人がウイルス検査を拒否した。長時間説得したが、法的拘束力がない。残念だ」。安倍晋三首相は30日の参院予算委員会で、チャーター機第1便の帰国者を29日に迎えた際に、想定外の事態が発生したと認めた。「人権の問題もあり、踏み込めない」と苦しさものぞかせた。
 政府が頭を悩ませているのは、症状のない帰国者の扱いだ。新型肺炎を感染症法上の指定感染症とする政令が来月7日に施行されれば、症状のある人に対し、入院の強制が可能になる。政府は施行前からこれに準じた対応を取っているが、症状のない人は強制入院の対象にできない。
 このため、政府はチャーター機内で症状なしと判断された人に対しても(1)政府のバスで空港から東京都内の国立国際医療研究センターに直行し、ウイルス検査を受診する(2)結果が出るまでは政府が用意した宿泊施設に待機し、陰性の場合でも帰国後2週間は不要不急の外出を控える―ことを「強く要請」(西村明宏官房副長官)。こうした対応を取れば「国民に感染は拡大しない」(厚生労働省)との立場だった。
 しかし、実際には第1便の搭乗者のうち、ウイルス検査を拒否した2人を含む3人が政府の宿泊施設に入らず、自宅に戻った。さらに30日には、症状のない帰国者が新型ウイルスに感染していたことが判明。症状がなければ強制措置を講じることができず、政府対応の限界が鮮明になった。
 感染拡大防止の観点から、今回の政府対応には「諸外国に比べて緩い」(外務省幹部)との指摘が出ている。首相は30日の政府対策本部の初会合で「水際対策のフェーズを一段引き上げる」と強調。政府高官はウイルス検査への同意をチャーター機搭乗の条件とする考えを示した。
 政府内からは「国内でパンデミック(大流行)が起きれば、政権の責任が問われる」との危機感も漏れる。別の政府高官は「いずれ帰国者全員を隔離せざるを得なくなるかもしれない」と語った。 (C)時事通信社