「率直に申し上げて政府の力だけでこの戦いに勝利を収めることはできない。一人一人の国民の理解と協力が欠かせない」。安倍晋三首相は29日の記者会見で、新型コロナウイルスの感染抑制へ向け、危機感を交えつつこう訴えた。ただ、一連の政府対応は「後手後手」「場当たり的」との批判も受ける。首相会見からは、具体的な判断や行動を民間に委ねざるを得ない実態も垣間見え、国民の不安解消につながったかは未知数だ。
 首相は27日、小中学校や高校などの「全国一斉休校」を唐突に要請。十分な準備や法的根拠がない中での決断は「見切り発車」の印象が否めず、学校現場や各家庭には困惑が広がっている。
 首相は会見で今回の判断を「断腸の思い」とした上で「多くの子どもや教職員が日常的に長時間集まる、同じ空間を共にすることによる感染リスクに備えなければならない」と理解を求めた。
 混乱回避に向けて、休職した保護者の所得減少に対応する新助成金の創設など、支援策を説明。「私が決断した以上、私の責任においてさまざまな課題に万全の対応を取る決意だ」と力を込めた。
 大規模イベントの自粛要請なども含め、首相はこの間、感染封じ込めへ「政治決断」を連発してきた。側近の一人は「何より集団感染が怖い。うだうだ議論してもしょうがない」と指摘。今後もあらゆる手だてを講じる構えだ。
 ただ、一斉休校の結果、国民生活に多大な影響が生じれば、批判の矛先が首相に向かうのは避けられない。自民党幹部は「吉と出るか凶と出るか分からない」と懸念を示した。
 首相サイドは、国会審議や政府対策本部などを通じ、情報発信に努めたと主張する。しかし、感染拡大に関する不正確な情報が拡散し、全国的にトイレットペーパーが品薄となるなどの現象が出ている。政権内からも「正しい情報が全然発信できていない」(主要閣僚)との不満が漏れ、首相は自ら「トイレットペーパーは十分な供給量、在庫が確保されており、冷静な購買活動をお願いしたい」と国民に説いた。
 会見を受け、自民党の岸田文雄政調会長は取材に対し「政府に全力で協力し、積極的に提言していく」と表明。公明党の斉藤鉄夫幹事長は「率直に国民に協力を求めた点は非常に評価できる」との談話を出した。一方、立憲民主党の逢坂誠二政調会長はコメントで、「新味はなく、大変残念だ」と批判した。
 会見は、首相自身の説明を求める与野党の声に押される形で実施され、予定時間の20分を超えて36分間に及んだが、最後は記者の質問を途中で打ち切った。3月2日からの参院予算委員会でも首相は野党から厳しい追及を受け、さらなる対応策や説明を求められそうだ。 (C)時事通信社