新型コロナウイルスの波は東南アジアにも押し寄せている。域内10カ国の感染者は30日時点で計8400人、死者は250人。対応はさまざまで、シンガポールはITを駆使して感染者を追跡。インドネシアでは、イスラム断食月(ラマダン)明けの帰省禁止を検討している。タイではムエタイ会場で集団感染が発生。ベトナムでは新聞が休刊になった。
 ◇際立つ追跡能力
 死者が3人にとどまっているシンガポールは爆発的な感染拡大を抑えており、新型コロナ対策の「優等生」と評される。際立つのが、感染経路や濃厚接触者を割り出す能力の高さだ。警察官も投入され、監視カメラを駆使して感染者の行動を追う。市民が虚偽の説明をすれば禁錮刑を科される可能性がある。
 さらに、感染者を探せるスマートフォン用アプリも開発。相手もアプリを使っていることが前提だが、感染者のアプリから「最近、2メートル以内で30分以上接近した人」(保健省)が分かる。強権で知られる政府なだけに、プライバシーや人権侵害を懸念する声は市民から上がっていないようだ。
 ◇首都圏から脱出続く
 隣国のインドネシアでは30日までに感染者は1400人以上、死者も120人を超えた。このうち7割以上が、ジャカルタ首都圏(人口2700万人)を抱える3州に集中している。
 ただ、5月下旬に始まるラマダン明け大祭の12連休で、全国へのウイルス拡散が懸念されている。日本の盆や正月と同様、首都圏から大勢が各地に帰省するためで、政府は「アメとムチで」(地元紙)帰省を禁止する方法を検討中だ。
 しかし既に首都圏を脱する人が続出。「在宅勤務の導入や商業施設の休業で生活できなくなった露天商らが帰省している」と政府はみている。
 ◇ムエタイ会場で集団感染
 タイの国技ムエタイの会場で3月上旬、新型コロナの集団感染が発生した。政府がスポーツ行事の自粛を閣議決定したにもかかわらず、強行した結果で、ムエタイを運営する陸軍のアピラット司令官が経緯の調査を命じた。
 試合は6日、バンコクの競技場で行われ、約5000人が観戦。司会を務めた人気俳優や場内にいた陸軍幹部も感染した。タイでは当初、感染者はバンコク周辺に集中していたが、3月下旬以降、地方に広がった。観戦した地方出身者から拡散した可能性が高いとみられている。
 ◇新聞発行を停止
 ベトナムの英字紙ベトナム・ニュースは30日、同紙の女性記者が新型コロナに感染したことを受け、31日から4月15日まで新聞が休刊になると発表した。この記者と接触した多くの社員が医療施設や自宅で隔離措置を受けており、「印刷した新聞を届けるのが不可能になった」としている。
 女性記者が取材した外国人が新型コロナウイルスに感染していたことが26日に発覚し、記者も30日に感染が確認された。ベトナム当局は同紙の本社が入るビルの一部を閉鎖しているという。同紙はインターネット・サイトで最新のニュースを更新していく方針。ベトナムでの感染者数は30日時点で、約200人。
 ◇全土を移動制限
 感染者数が30日までに累計2626人と、東南アジアで最多のマレーシア。感染者の約半数が、クアラルンプールのモスクで2月27日から3月1日まで開かれた大規模な宗教行事の出席者らで占められている。
 就任したばかりのムヒディン首相は、18日から4月14日まで全土を対象に移動制限を発令。生活に欠かせない一部サービスを除いて企業活動も停止し、人々は自宅待機を強いられている。経済への影響も深刻で政府は3月27日、2500億リンギ(約6兆2000億円)の大型景気刺激策を打ち出した。 (C)時事通信社