新型コロナウイルスの感染拡大を受け、増加が予想される重症者の治療に必要な人工呼吸器など医療機器の増産が急務となっている。政府は医療機器メーカーに加え、自動車や電機メーカーにも協力を呼び掛けた。しかし、医療機器の生産には高度な安全性が求められるため、異業種参入のハードルは高い。
 医療機器大手のテルモは体外式膜型人工肺(ECMO、エクモ)の増産を始めた。重篤な患者の肺の機能を代替し、体外に取り出した血液に酸素を加えて戻す装置だ。国内シェア約7割の同社は静岡県の工場で休日返上で操業。今後数カ月で年間生産台数に相当する百数十台を生産する。エクモの部品を製造するニプロには、国内外からの問い合わせが増えている。
 一方、人工呼吸器については安倍晋三首相が「1万5000台を確保済みで2万台まで増やしたい」と表明している。だが、呼吸器の大半は海外製で、国内勢はほとんどが中小企業。このため、国内の増産余地は小さいのが実情だ。
 三幸製作所(さいたま市)とコーケンメディカル(東京)はそれぞれ麻酔治療用と救急車用の呼吸器の増産を始めたが、集中治療室(ICU)での使用には耐えられないという。ICU向け呼吸器を輸入する日本光電は「世界的に需要が高まっており、今後十分な台数を確保できるか分からない」と懸念する。
 米国ではゼネラル・モーターズ(GM)など自動車大手が呼吸器の生産に乗り出した。日本でも政府が産業界に総動員体制による協力を要請。緊急経済対策で88億円の補助金を確保し、医療機器の増産支援に動きだした。
 呼吸器生産への参入期待が高まっているトヨタ自動車は、医療機器メーカーに生産効率化のノウハウを提供する予定。ただ、生産そのものには「命に直結する器具は簡単ではない」(豊田章男社長)と慎重姿勢を崩していない。経団連の中西宏明会長(日立製作所会長)も「(医療機器の品質や安全性を確保する)規制があるので、異業種がすぐに生産できるものではない」と指摘する。
 また、中小メーカーの関係者は、異業種との協力に関し「技術者派遣の申し出もあるが、(経験のない人に)生産を任せるのは難しい」と困惑している。 (C)時事通信社