新型コロナウイルスの集団感染が相次いで発生した高齢者施設。中でも札幌市の介護老人保健施設「茨戸アカシアハイツ」では、5月30日までに全入所者の約7割に当たる71人が感染し、計15人が死亡した。感染拡大の背景には、患者のエリアを分ける「ゾーニング」の難しさなど介護施設特有の事情がある。
 施設を運営する社会福祉法人「札幌恵友会」などによると、最初に入所者の感染を確認したのは4月26日。既に複数の人に発熱などの症状がみられ、市保健所は同28日、施設でのクラスター(感染者集団)発生を認定した。だが、入院先の調整に時間がかかり、入所者の病院搬送が始まったのは5月12日になってからだった。
 「もう少し早く搬送していれば、亡くならずに済む人もいた」。運営法人の関係者は悔しさをにじませる。搬送先の選定中に重症化した人もいるとみられるためだ。
 感染発覚後、施設では陽性と陰性の人をそれぞれ1階と2階に分けるゾーニングを実施。だが、感染にさらされる恐怖から施設を辞める職員が続出し、人手不足から残った職員が1、2階の両方を担当せざるを得なくなった。施設関係者によると、認知症の入所者が両階を徘徊(はいかい)するケースもあった。
 感染拡大の一因には、複数人が同じ部屋で生活するなど「3密」が生まれやすい介護施設の環境がある。食事やトイレなど日常生活に介助が必要な人もおり、職員を介して感染が広がったとみられるほか、基礎疾患を持つ入所者が多かったことも重症化や死亡者の増大につながった。
 病院移送に手間取ったことも感染を拡大させた。国は施設で感染した高齢者について「原則入院」と通知。しかし、札幌市では受け入れる医療機関が少なく、搬送が進まなかった。秋元克広市長は会見で「4月下旬から5月上旬まで市内医療機関の病床は非常に逼迫(ひっぱく)し、入院調整などが難しかった」と釈明した。
 搬送の難しさもある。施設を視察した北海道医療大の塚本容子教授(感染管理)は「慣れている介護施設から医療機関に突然移すと、環境の変化に戸惑って暴れてしまう高齢者もいる」と指摘。「施設に感染症の専門家を常駐させる必要がある」と話した。 (C)時事通信社