検査の済んだ選手らだけが入場できるオリンピックエリア。無人の観客席にはスピーカーを通じたリモート観戦者の大声援がこだまする―。1年後に迫る東京五輪は、こんな「新しい五輪様式」になるのか。新型コロナウイルス感染症の収束が見通せない中、専門家の話から開催への道を探った。
 10年前に発表した小説「首都感染」が今回のコロナ禍を「予言」したと話題になった作家の高嶋哲夫さんは「潔く中止して費用を感染対策に回すべきだ」としつつも、無観客にした上で、関係者が出入りする競技会場や選手村などの五輪エリアを完全に隔離する案を挙げる。小説では自衛隊などが東京中心部を封鎖し、人の行き来を完全に断つことでウイルスを封じ込める。同様に五輪と一般社会の接点を断ち、感染拡大を防ぐ発想だ。
 東海大の金谷泰宏教授(公衆衛生学)も「ワクチンがなくても、競技エリアの隔離や住民の外出自粛が徹底できれば可能性はある」とみる。関係者への検疫などを徹底した上で、行動範囲を制限し、全地球測位システム(GPS)機能付きアプリで管理。大会期間中には都民に外出自粛やテレワークを要請するほか、一時的に都外へ移るよう促すことで、関係者との接触を極力減らすことを提案する。同教授は「選手に何とか五輪を残してあげたい」と願う。
 満員の競技場が厳しい場合、無観客や客席減でどう大会を盛り上げるのか。NTTドコモスポーツ&ライブビジネス推進室の馬場浩史室長は「テレビでは見られない光景や感動の共有といった、大会に参加した実感を提供する工夫が大切だ」と指摘。審判目線やグラウンドからのパノラマなど迫力ある映像を客席と連動させて販売し、マルチアングル中継の一つに、購入した「席」からの視点やスタンドにいる購入者本人の合成映像を加えるというアイデアを示す。「妄想含みだが、他の観客や選手にコンタクト可能な仕組みができれば、特別な体験になる」と語った。
 ヤマハは無観客でも選手に声援を伝える「リモート応援システム」を開発した。視聴者がスマホで「拍手」や「歓声」のボタンを押すと、音声変換されスタンドのスピーカーから流れる仕組みで、押す人数で音量も変わる。責任者の瀬戸優樹さんは「プレーに対する生の反応だと選手に思いが伝わる」と話す。五輪競技に対応させれば声を直接届けられる可能性があり、「開催の是非はともかく、日本の技術でスポーツ観戦の新様式ができれば、レガシーと言えるのでは」と力を込めた。 (C)時事通信社