相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で2016年、入所者ら45人が殺傷された事件から26日で4年。事件で重傷を負った尾野一矢さん(47)は、長年過ごした園を出てアパートで1人暮らしを始めようと、自立への歩みを進めている。
 「ご飯、どれにする?」。介護福祉士の大坪寧樹さん(52)は今月10日、一緒に過ごす一矢さんに尋ねた。この日は昼食を買い、アパートの部屋で食べる予定だ。一矢さんは悩みながらも「これ」と指さし、次々と買い物かごに入れた。
 大坪さんは「要求したり、意志を表現したりすることが増えた」と目を細める。帰り際、「きょうは楽しかった?」と聞かれ、一矢さんは首を何度か縦に振り、「楽しかった」とつぶやいた。
 一矢さんは公的サービスの「重度訪問介護」を利用し、ホームヘルパーの支援を受けながらの自立を目指して、おととし8月から大坪さんと交流を続けてきた。来月中旬にも本格的にアパート生活を始める予定で、今は園に住みながら、新生活に慣れるため定期的にアパートで過ごしている。
 自閉症と重い知的障害がある一矢さんは、23歳でやまゆり園に入所した。管理が行き届いた園について、父の剛志さん(76)は「ついの住み家になる」と考えていた。しかし、事件が転機に。県がやまゆり園の再建を決める際、一部の障害者団体は自立生活を送る地域移行に逆行すると批判した。剛志さんは「施設でしか生活できない人のことを考えていない」と反感を抱いた。
 一方、講演活動を続ける中で、重度障害者でも自立生活を送れる制度を知った。「そんなものがあるなんて」と驚き、翌年には自立に向け本格的に動き始めた。
 ヘルパーとの交流開始後は精神的に落ち着き、自傷行為がなくなるなど、一矢さんには変化が見られるという。自閉症のため人との交流を避けてきたが、今では新しく出会った人とも手遊びをする。「以前と比べると月とすっぽん。すごく成長した」と目を見張る。
 自立を目前に控えた一矢さんに、剛志さんは「これが本当の幸せ、平凡な幸せだ。これからはその幸せを味わわせたい」と願っている。 (C)時事通信社