難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者女性の依頼で医師2人が女性を殺害したとされる嘱託殺人事件は、30日で逮捕から1週間。死亡した林優里さん=当時(51)=は、ALSを苦に死を望んでいたといい、事件は社会に重い問いを投げ掛けた。同じ病を抱える患者は林さんに共感する一方、「私は生き抜く」「安楽死は選ばない」とも訴える。
 「もし私に相談してくれていれば」と悔やむのは、ALSと闘いながら難病患者の医療相談などに取り組む千葉県八千代市の医師太田守武さん(51)。2011年に発症、その後仕事もできなくなり「死ぬことばかり考えていた」という。周囲の支えで医師で患者でもある経験を生かそうと考えられるようになり、NPO法人を立ち上げた。声を失ってからも、目線の動きで妻や看護師に言葉を伝え活動を続ける。
 太田さんは林さんについて「死にたいときに、希望ではなく死を勧める人に会ってしまった」と述べ、より良い生活に向けた支援制度や、寄り添う存在を知れば結果が違った可能性を指摘。知識不足が患者を絶望させ、社会の偏見がさらに気持ちを追い詰めるとし、「不幸と決めつけないでほしい。ALSなんて個性の一つ。私は私らしく生き抜く」と力を込めた。
 4年前に遺伝によるALSと診断された会社員中田諭志さん(43)=鳥取県米子市=も、「どれほどの苦痛が待っているか分からないが、安楽死を選ぶことはない」と強調する。長男(20)にも遺伝する不安はあるが、そのときに前を向いて生きてもらうためにも、自分が死を願うわけにはいかないという。「ALSでも楽しそうに生きていたと言ってもらえる父でいたい」と決意を述べた。
 一方、林さんとツイッターで交流のあったALS患者で大学教授(休職中)の平坂貢さん(48)=長崎県大村市=は「彼女の(死を願う)ツイートはリアルな心の叫びだった。願いがかなって良かったと思う」と理解を示す。共感するメッセージを送ると「なぜか他の患者さんには治る希望を持ってほしいと思う。勝手なものですね」と林さんから返事が来たという。「逮捕は仕方ない」としつつも、人工呼吸器を装着せずに延命を拒む患者が多いことは問題にされていないと指摘。「それも社会の在り方。暗に尊厳死を認めているのでは」と問題提起した。 (C)時事通信社