ノーベル化学賞に選ばれた仏米の研究者らが開発したゲノム編集技術「クリスパー・キャス9」。遺伝子を簡単に効率良く改変する技術は2012年に発表され、急速に広まった。約30年前、技術の基礎となる遺伝子の繰り返し配列を発見したのは、石野良純さん(63)=現九州大教授=らの研究チームだった。
 石野さんは当時、大阪大微生物病研究所で大腸菌の研究をしていた。「IAP」という酵素の遺伝子を探し出して解析するうちに、奇妙なDNA塩基配列の繰り返しを発見した。「CGGTTTA…」から始まる29個の配列だった。
 遺伝子を含むDNAはATGCの4種類の塩基で構成され、塩基の組み合わせがタンパク質の設計図の役割を果たしている。繰り返しの配列が何を意味するのか分からなかったが、同じ配列が5回、しかも等間隔で出現していた。「あれほどきれいに繰り返している配列は例がなかった」と石野さんは振り返る。
 1987年に発表したIAPに関する論文の中で、繰り返し配列についても報告した。その後、石野さんは渡米し、別の研究に没頭した。
 2000年代に入ると、奇妙な配列はクリスパーと名付けられ、免疫に関係していることが分かった。ウイルスが細胞に侵入するとタンパク質「キャス」がDNAを切断し、断片がクリスパーに取り込まれ記憶される。同じウイルスが侵入すると、記憶を基にDNAを切断する仕組みだ。
 「第一発見者」となった石野さんらの報告は多くの論文に引用され、ゲノム編集技術に応用された。石野さんは「長年同じ分野で研究していたので、やられたと思った」と悔しさをにじませつつ、「ゲノム編集に使えるという発想が見事だ」と開発者に賛辞を贈る。
 クリスパーは目的の遺伝子の解析が終わった後、「せっかくだから」と前後のDNAを調べた結果、見つかった。「無駄なく効率的な研究をしたら、IAPを確認しただけで終わっていた」と石野さん。実用重視の傾向が続く中、「はやりの研究に費用が流れる。もっと基礎研究に力が注がれる環境になれば」と話している。 (C)時事通信社