【ブリュッセル時事】欧州連合(EU)欧州委員会が29日発表した新型コロナウイルスワクチンの輸出規制が波紋を広げている。特にEU加盟国アイルランドと英領北アイルランド間の国境でも監視を行う方針を示したことに英国が猛反発。欧州委は同日深夜に慌てて撤回したが、EUを離脱した英国との関係に大きな禍根を残した。
 「信じがたい敵対的行為だ」。北アイルランド自治政府のフォスター首相は29日、EUを厳しく批判。ジョンソン英首相もフォンデアライエン欧州委員長に電話で「深刻な懸念」を伝えた。
 帰属をめぐる紛争で多くの犠牲者を出した北アイルランドの国境問題は、難航を極めた英国のEU離脱交渉で最大の懸案だった。昨年1月末に発効した離脱協定で北アイルランドは英EU双方の関税の二重運用圏とされたが、これは税関など物理的な国境復活を避けて平和を維持するためだ。
 欧州委は今回、英製薬大手アストラゼネカによるワクチンの大幅な供給遅延を受けて域外への輸出規制を導入。EU内で製造されたワクチンが英国などに優先供給されるのを防ぐため事前承認制としたが、北アイルランド国境が「抜け穴」となるのを恐れ、深刻な状況下なら国境検査を一方的に復活できる離脱協定の規定発動が「正当化される」との認識を示した。
 しかし、これには英側が一斉に反発。アイルランドも不満をあらわにし、欧州委はすぐに撤回に追い込まれた。英メディアによると、離脱をめぐる対英交渉で最も重視してきたはずの国境問題での拙速な対応に、EU内からも「見誤り」や「失態」との声が上がった。
 英米に後れを取るワクチン接種への焦りが思わぬ摩擦を招いた格好だ。ただ、世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長が「ワクチン国家主義(ナショナリズム)」に警鐘を鳴らすなど、輸出規制自体にも批判や警戒の目が向けられている。 (C)時事通信社