「カン、カン、カン」。東京の下町に拍子木の音が響く。新型コロナウイルスの感染拡大で閉塞(へいそく)感が漂う中、劇団「ワハハ本舗」所属の俳優佐藤正宏さん(62)が、自転車の荷台で紙芝居を上演している。「コロナで不平不満も多いだろうが、少しだけ愉快な気持ちになってくれれば」と話す。
 昨年8月以降、荒川区西日暮里の商店街近くで、「へっぷりむすこ」や「三枚のおふだ」などの話を披露。高校で美術教師をしている友人らが描いた「一点物」を一枚一枚引き抜きながら、鬼や人間など役柄に応じた声色で臨場感たっぷりに演じる。ビールケースに座る子供らの顔には笑みも浮かぶ。「密」になりにくい屋外で、感染防止のため距離を取り、投げ銭をもらう際も虫取り網を活用する。
 きっかけは東日本大震災。ボランティア活動を通じて「自分一人でできること」を考え、以前から興味を抱いていた紙芝居という表現手段を取り込んだ。2013年の夏から岩手県大船渡市などで行い、16年から東京都公認の大道芸人「ヘブンアーティスト」にも登録している。
 新型コロナの影響を受け、昨年は劇団の公演などが次々と中止。大道芸人としての活動もできなくなった。ほとんど補償もなく、貯金を切り崩して生活しながら表現の場を模索していた佐藤さんは、息子の助言もあり「自分で何とかするしかない」と思い立った。友人を通じて知り合った自閉スペクトラム症の吉岡孝弥さん(21)の絵画に感銘を受け、紙芝居をする時に着るシャツや自転車をデザインしてもらった。
 「街頭が劇場になり生の芸能が立ち上がる。子供の反応など毎回違う発見がある」のが紙芝居の良さ。昨年12月には、吉岡さんらと紙芝居やアート、音楽を融合したユニット「種まく団」を結成し、団旗は吉岡さんが手掛けた。佐藤さんは「今は大変な状況だが、コロナが終息したら全国に届けたい」と意気込む。 (C)時事通信社