東日本大震災から間もなく10年。これまでに岩手、宮城、福島の3県などには計270カ所を超える伝承施設が生まれ、さまざまな教訓を国内外に伝えてきた。被害や復興への歩みを伝える語り部の活動は、新型コロナウイルスの感染拡大で大きな打撃を受け、各団体はオンラインを活用するなど新たな運営方法を模索する。一方、支援が不十分との指摘もあり、持続的な伝承活動への課題も残る。
 「いつどこで次の災害が起こるか分からない」。2月12日、東日本大震災・原子力災害伝承館(福島県双葉町)で、同県いわき市の語り部、石川弘子さん(62)はマスク姿で来館者に語り掛けた。自宅から高台に逃げる際に撮影した津波の写真を見せながら、「まず自分の命を第一に避難してほしい」と力を込めた。
 同館は2020年9月に開業後、消毒や検温などの感染防止策を取り、これまでに約3万5000人が訪れた。語り部による1日4回の口演が行われ、運営幹部は「被災の記憶を追体験することで、震災を『自分ごと』として捉えるきっかけにしてほしい」と話す。
 宮城県南三陸町の「南三陸ホテル観洋」は被災地を巡る「語り部バス」を毎日運行し、教育旅行を多く受け入れてきた。ただ、コロナ禍で今年1~3月、約6000人分の予約がキャンセルに。オンラインでの防災ワークショップを代わりに開催したが、従業員の伊藤俊さん(45)は「『この高さの場所まで逃げれば助かった』といった話は、現場でないと伝わらない」と歯がゆさを語る。
 伝承活動に取り組む個人や団体でつくる「3.11メモリアルネットワーク」が行った調査によると、伝承施設への来館者数は右肩上がりの一方、語り部団体などが主催する学習プログラムへの参加者は13年をピークに減少している。ネットワークの担当者は「復興が進むにつれ震災の爪痕が分かりづらくなったことが要因の一つ。コロナ禍が追い打ちをかけ、財政面で運営が厳しい団体は多いが、行政の支援が十分でない」と指摘する。
 東京電力福島第1原発事故で避難指示区域に指定された福島県富岡町のNPO法人「富岡町3・11を語る会」もツアーガイドなどのキャンセルが相次ぎ、代表を務める青木淑子さん(73)は「多くの収入を失い、国などの助成金で何とか運営を続けている」と明かす。
 伝承施設の開業が相次ぐ中、青木さんは「展示だけでなく、何があったのかを語る人がいなければ、教訓は伝わらない」と語り、自治体と語り部など民間団体の連携をさらに深める必要があるとの認識を示した。 (C)時事通信社