【ヤウアレテ(ブラジル北西部)時事】新型コロナウイルス累計感染者数が1100万人を超える南米ブラジルでは、1月半ばからワクチンの接種が始まった。「最優先対象」は医療従事者と高齢者に加え、免疫力が低いとされる先住民。政府は軍を動員した接種作戦を進めているが、アマゾン熱帯雨林の孤立集落への接近は容易ではなく、苦戦を強いられている。
 国のほぼ中央に位置する首都ブラジリアから軍用プロペラ機で10時間かかる対コロンビア国境の基地の街ヤウアレテ。さらに軍用ヘリで数十分飛んだ密林の中に現れたウピダ族の集落タラクアイガラペでは今月3日、18歳以上の住民を対象に接種が行われた。人口230人の集落では、2人が買い出しで街に出た際に感染したが、ともに回復したという。
 広場の集会所に集まった住民らは、保健当局者に名前を呼ばれると恐る恐る服をまくって腕を差し出した。この日1度目の接種を受けたというジョルジ・ピレス部族長は、たどたどしいポルトガル語で「幸せで、ありがたい。病気から身を守ってもらえる。村のみんなも歓迎している」と語った。再びヘリコプターで移動した次の集落サンタアタナジアでは、同じウピダ族の住民256人のうち1人が感染。ミゲル・カウダスさんは「9人家族を養わなければならないから受けた。ちょっと痛かったが、これで安心」と白い歯を見せた。
 もっとも、感染者数が少ないせいか二つの集落ではほとんど誰もマスクを着けておらず、新型コロナへの危機感は希薄。先祖代々けがや病を薬草で治してきただけに、西洋医学への懐疑心も根強い。ピレス部族長は薬草を手に「これも薬(ワクチン)と同じくらい大事だ」と指摘。タラクアイガラペ住民に接種を呼び掛けたジョビノ・ソコトさんは「接種すると数時間で死ぬというデマが多くの集落で流れ、私に打つなと耳打ちしてきた人もいた」と明かした。
 保健省の先住民保健特別局(SESAI)は先住民を優先する理由について「密な集団生活を送っているため、一人が罹患(りかん)すると広がりやすい。最も近い医療施設に行くのに何日もかかるような遠隔地に住んでおり、新型コロナに脆弱(ぜいじゃく)だ」と説明。「医療支援に当たっては、あらゆる面で伝統医療を尊重している」と指摘している。 (C)時事通信社