家族性大腸腺腫症(Familial Adenomatous Polyposis:FAP)は、がん抑制にかかわるAPC遺伝子の病的変異により大腸に腺腫(ポリープ)が100個以上多発する常染色体優性遺伝性疾患で10歳代に好発し、国内の患者数は約7,300例と推定される。未治療の場合、ほぼ全例で60歳ころまでに大腸がんを発症するため、唯一の予防法として大腸全摘出術が行われてきた。そうした中、京都府立医科大学大学院分子標的予防医学特任教授の石川秀樹氏、同教授の武藤倫弘氏らの研究グループは、大腸温存FAP患者を対象に低用量アスピリンの二重盲検ランダム化比較試験J-FAPP Study Ⅳを実施。大腸ポリープの増大を有意に抑制したとLancet Gastroenterol Hepatol2021年4月1日オンライン版)に報告した。同研究グループは、日本初のがん予防薬として低用量アスピリンの保険収載目指している。

求められる大腸温存法

 大腸がんの多くは、腺腫を母地としている。まず、APC遺伝子の変異により腺腫が発生し、KRASTP53といったがん抑制に関わる遺伝子の変異が加わると悪性化する。また、がんの発生・進展には炎症が関与していることが知られている。そのためFAP患者では通常、大腸がんの発症予防として20歳を過ぎたころに大腸全摘出術が検討される。しかし、QOLの低下および手術によるデスモイド腫瘍発生リスクの上昇、仕事や出産への影響に鑑み、手術を希望しない患者も増加しており、大腸温存法の実用化が求められている。

 そうした背景の下、研究グループは抗腫瘍作用が報告されている抗炎症薬のアスピリンに着目。既に、クリーンコロン(ポリープのない状態)後の大腸腺腫/腺がん患者では、2年間の低用量アスピリン服用によりプラセボに比べて再発リスクが40%低下することを報告している〔調整後オッズ比(aOR)0.60、95%CI 0.36~0.98、Gut 2014; 63: 1755-1759、関連記事「低用量アスピリンで大腸腺腫の再発リスクが40%低下」)。また、潰瘍性大腸炎を伴うFAP患者において、炎症抑制薬のメサラジンがポリープの縮小作用を示すことも明らかにしている(Pharmacology 2019; 104: 51-56)。今回は、5mm以上の大腸ポリープを摘除した成人FAP患者を対象に、アスピリンとメサラジンの大腸ポリープ再発抑制効果を検討した。

アスピリン投与群で大腸ポリープ再発リスクが6割程度減少

 対象は内視鏡による大腸ポリープ摘除後、大腸外科的手術の有無を検討したJ-FAPP Study Ⅲに参加した16~70歳のFAP患者のうち、同意が得られた102例。2015年9月~17年3月までにメサラジン(2g/日)+プラセボ投与群(26例)、低用量アスピリン(100mg/日)+プラセボ投与群(24例)、メサラジン+低用量アスピリン投与群(26例)、プラセボ投与群(26例)にランダムに割り付け、8カ月投与した。主要評価項目は、介入期間中に5mm以上の大腸ポリープが発生した患者の有無とした。

 解析の結果、試験薬に関連する重篤な有害事象は発生せず、低用量アスピリン投与群(5mm以上のポリープなし35例、あり15例)は、非投与群(同26例、26例)と比べポリープを新たに発生する患者が少なかった(aOR 0.37、95%CI 0.16~0.86)。さらに、大腸がんは下行、S状結腸、直腸といった左側大腸に多く発生することが知られているが、ポリープ抑制効果は左側大腸でより高かった。また、有意差はなかったもののメサラジン投与群(5mm以上のポリープなし32例、あり20例)でも、プラセボ投与群(同29例、21例)に比べポリープの再発に抑制傾向が見られた(aOR 0.87、95%CI 0.38~2.00)。

実用化を目指し長期投与試験も

 同試験には国内11施設が参加している。研究グループは、大腸が温存された成人FAP患者を対象とした世界最大規模の試験において、主要評価項目で有意差が出た初の事例であり、FAP患者における大腸がん予防につながるとして期待を寄せる。さらに、FAP患者だけでなく、複数のポリープの内視鏡摘出術後など大腸がんリスクが中程度の人に対しても、予防薬としてのアスピリン使用が考えられるという。

 研究グループは、今回の知見が将来的に『遺伝性大腸癌診療ガイドライン』への記載を経て、アスピリンが日本初のがん予防薬として保険収載されることを目指している。今後はFAP患者を対象に、低用量アスピリンの長期的な有効性と安全性の影響を検討するJ-FAPP Study Ⅴを行うとしている。

(須藤陽子)