神経難病である筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療法は限られており、その理由として治療の標的分子が同定されておらず、重症度や進行度を反映するバイオマーカーが未確立であることが挙げられる。名古屋大学大学院神経内科学教授の勝野雅央氏、山田晋一郎氏らの研究グループは、筋肉を構成する蛋白質チチンの尿中濃度がALSの進行度や予後予測のバイオマーカーになりうることを突き止めた、とJ Neurol Neurosurg Psychiatry2021年3月18日オンライン版)に発表した。

高値の患者では予後不良に

 ALSは進行性の全身骨格筋の萎縮および筋力低下により運動機能障害、嚥下障害、呼吸筋麻痺などを来す。進行は極めて速く、発症後平均3~5年で死亡または長期の人工呼吸管理が必要となる神経難病だ。 

 研究グループは、筋ジストロフィーなどさまざまな疾患の患者の尿中で、増加することが報告されているチチンに着目。筋肉は力を入れると収縮するが、脱力したときそれを元に戻す役割を担っているのがチチンだ。横紋筋に特異的に発現する蛋白質で、骨格筋の損傷に伴い断片化されて筋外に漏出、尿中から検出されことが知られている。

 研究グループはチチンがALSの重症度や予後を予測するマーカーになりうるかを検討した。

 ALS患者、健常人、その他の神経筋疾患患者の血清や尿などの生体試料を収集。尿中チチン濃度を測定したところ、健常人に比べALS患者で有意に上昇していた。さらに、ALSの運動機能評価尺であるALSFRS-Rのスコアと尿中チチン濃度の関連を調べた結果、両者の数値が相関していた。これらのことから、チチンはALS患者の進行度を予測する非侵襲的な指標になることが示された。尿中チチンが上昇しているALS 患者では予後が不良で、チチンが予後予測マーカーとしても有用であることも分かった。

既存マーカーとの併用で進行度や予後予測に活用も

 研究では、尿中チチンがALS患者と健常者を見分ける指標になりうるかについても検討。既存のALSのバイオマーカーである尿中のp75ECDや血清ニューロフィラメント軽鎖(NfL)とチチンを比べたところ、チチンは血清NfLと同等の精度でALS患者と健常人を識別できた。

 また、尿中のp75ECDはALSFRS-Rと相関していたが、予後とは相関しなかったのに対し、血清NfLはALSFRS-Rとの相関は見られないものの予後と関連していたことから、尿中チチンを既存のバイオマーカーと組み合わせることで、ALSの重症度や進行度、予後予測のマーカーになりうることが示唆された。

 これらの結果を踏まえ、研究グループは「尿中チチンはALSの診療や臨床試験などで活用可能なマーカーと考えられる」と結論。「今後はチチンがALSに対する治療薬の効果予測や臨床試験の評価項目として応用が可能かを検証し、ALSの治療法の開発につなげていきたい」としている。

(小沼紀子)