新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の流行下で、10歳未満の小児の間でライノウイルスによる呼吸器感染症のリスクが上昇したことを、東京大学医科学研究所感染・免疫部門ウイルス感染分野教授の河岡義裕氏、国立感染症研究所、横浜市衛生研究所の共同研究グループが明らかにした。結果の詳細は、Influenza Other Respir Viruses 2021年3月14日オンライン版)に発表された。主に春と秋に流行するウイルスで、肺炎などを合併し重症化する恐れもあるため、これからの季節は注意が必要だ。

予防ワクチンや治療薬のない感染症

 ライノウイルスはかぜを引き起こすウイルスの一種で、かぜの20~30%の原因と考えられている。抗原性の違いから100種類以上が存在することが知られており、有効なワクチンや治療薬はなく、対症療法が中心となる。肺炎などの合併症を引き起こし重症化することもある。

 研究グループは、2018年1月~20年9月に横浜市で呼吸器疾患患者2,244例〔新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者を除く〕から採取した呼吸器検体(鼻腔拭い液、咽頭拭い液、鼻汁、唾液、気管吸引液、喀痰)を用いて、インフルエンザウイルス、ライノウイルス、コクサッキーウイルス、単純ヘルペスウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルスなどの代表的な呼吸器感染症ウイルスを検出した。10歳未満の小児が1,119例(49.9%)含まれていた。

 解析の結果、最も多く検出されたインフルエンザウイルス(592例)に次いで多かったのはライノウイルス(155例)だった。475例からはその他の呼吸器感染症ウイルスが検出された。インフルエンザウイルスによって引き起こされるインフルエンザは主に冬に流行し、ライノウイルスによって引き起こされるかぜは主に春と秋に流行するとされる。

ウイルスの安定性が感染リスク上昇の一因か、例年の2倍以上に

 横浜市では2020年2月に初めてCOVID-19患者が報告され、10歳以上では経時的に報告数が増加したのに対し、10歳未満ではほとんど報告例はなかった。一方、ライノウイルスの検出率は、COVID-19の流行下では10歳未満の小児で著しく上昇し、例年の2倍以上だった。また、インフルエンザをはじめとしたその他の呼吸器感染症ウイルスの検出率は、全ての年齢層で低下した。

 研究グループは、ライノウイルスの感染リスクが上昇した一因として、SARS-CoV-2やインフルエンザウイルスは、ウイルスの表面が脂質の膜(エンベロープ)で覆われているのに対し、ライノウイルスはエンベロープを持たない点を挙げている。エンベロープに覆われているウイルスはアルコール消毒液やせっけんにさらされると破壊されて感染性を喪失するが、エンベロープを持たないライノウイルスは安定性が高く、アルコールによる消毒が効きにくいという。実際、COVID-19の流行拡大後に横浜市で検出された主なウイルスは、ライノウイルス、コクサッキーウイルス、アデノウイルスで、いずれもエンベロープを持たないものだったという。

 ライノウイルスはかぜを引き起こす主要な原因ウイルスだが、肺炎などの合併症を引き起こし重症化する場合もあることから、研究グループは「今後も呼吸器感染症ウイルスの検出状況を調査し、COVID-19流行下での感染リスクについて広く情報提供を行うことが重要だ」としている。

(小沼紀子)