日本アレルギー学会は「新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチン接種にともなう重度の過敏症(アナフィラキシー等)の管理・診断・治療」の指針を改訂し、3月12日に公開した。同学会では「SARS-CoV-2ワクチンによるアナフィラキシーは他の原因によるものと変わらず適切な対処により回復する」とした上で、「ワクチン接種に際しては常にその益と害のバランスを考える必要があり、副反応に対する過度な懸念や対応は社会に大きな損失と負担をもたらす」と懸念を表明。その上で、SARS-CoV-2ワクチンの副反応のうち特に重度の過敏反応(アナフィラキシー等)を起こしうる危険因子を踏まえて、接種を避けるべき人やアナフィラキシー発現後の管理、診断、治療法、準備すべき医薬品や医療備品などについて示した。

原因は化粧品による経皮感作の可能性も、解明は今後の課題

 SARS-CoV-2ワクチンによるアナフィラキシーの症状と対処自体は他の原因によるものと変わらず、適切な対処により回復することが報告されている。指針は同ワクチンを国内の医療現場で適切に使用してもらうために作成されたもので、①はじめに②副反応の種類と頻度③副反応の機序④ワクチン接種の対象⑤アレルギー反応/アナフィラキシー対策―の5つの項目で構成されている。

 国内で使用されているSARS-CoV-2ワクチンであるファイザー社のコミナティ接種によるアナフィラキシーは、接種開始から3月11日までに37例報告され、接種100万回当たり204例(37件/18万1,184回接種)に上った。100万回接種当たり米国の4.7件、英国の18.6件と比べて多いと考えられているが、海外とは単純な比較が難しい状況にある。3月12日に開催された厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会において、アナフィラキシーの国際基準(定義)『ブライトン分類』に基づき、同月9日までに報告されたアナフィラキシー発現例17例について評価したところ、4割超に当たる7例がアナフィラキシーと判断された。

 指針では、国内外で臨床導入されているコミナティ、モデルナ製、アストラゼネカ製のSARS-CoV-2ワクチンのアナフィラキシー発症機序についても言及。通常、ワクチンによるアナフィラキシーの発症を引き起こす原因として考えられるのが、免疫原である主成分またはアジュバントや保存剤などの添加物に対するIgEを介してのマスト細胞の活性化である。だが、SARS-CoV-2ワクチンにはアジュバントや保存剤は添加されておらず、「ファイザー製とモデルナ製のmRNAワクチンは、有効成分であるmRNAが封入されている脂質ナノ分子を形成する脂質二重膜の水溶性を保持するために使用されているポリエチレングリコール(PEG)が原因」と考察した。

 また、これまでに報告されたアナフィラキシー発現例は、コミナティの94%、モデルナ製ワクチンの全例が女性だったことから、「化粧品による経皮感作の可能性は否定できない。だが、未だPEG特異的IgE抗体の測定系は確立していないため、アナフィラキシー誘発機序や感作の実態解明などは今後の課題」と指摘した。

ハイリスク者は接種後30分程度は観察を

 指針では、ワクチン接種によりまれに発生し得るアナフィラキシーのリスクを極力減らすため、アレルギー歴や現在の治療内容・重症度などに関する問診を行った上で、接種を避けるべき「接種不適当者」と、慎重な観察や対応を要する「接種要注意者」に該当するかを判断するよう求めた。

 コミナティの接種不適当者としては、①明らかな発熱を呈している②重篤な急性疾患にかかっていることが明らか③同ワクチンの成分に対し重度の過敏症の既往歴がある④①~③に挙げた以外に予防接種を行うことが不適当な状態にある-を挙げ、③以外への対応は「一時的な接種延期でよい」とした。1回目のワクチン接種で重度の過敏症(全身性の皮膚・粘膜症状、喘鳴、呼吸困難、頻脈、血圧低下など)を呈した例やワクチンの成分であるPEGまたPEGと交差反応性があるポリソルベートを含む薬剤に対して重度の過敏症を来した既往がある例に対しては「コミナティの接種を避けるべき」と明記した。

 一方、抗凝固療法を受けている人、血小板減少症または凝固障害を有する人、過去に免疫不全の診断がなされている人、心臓血管系疾患、腎臓疾患、肝臓疾患、血液疾患、発育障害といった基礎疾患がある人などについては、接種要注意者とした。また、①予防接種の接種後2日以内に発熱が見られた、および全身性発疹などのアレルギーを疑う症状を呈したことがある②コミナティの成分に対してアレルギーを呈する恐れがある-人も要注意者とされた。①と②に該当する人は、アナフィラキシーなど重度の過敏症に対応できる体制のもとで接種し、接種後の観察時間も30分以上が望ましいとされた。

 接種後の待機時間については、過去にワクチンや他の医薬品による即時型アレルギー反応/アナフィラキシー歴がある場合や、コントロール不良と思われる気管支喘息患者に関しては「少なくとも30分程度の観察が望ましい」とし、それ以外の人は「少なくとも15分間」とした。過去にワクチンあるいは他の医薬品による即時型アレルギー反応/アナフィラキシー歴があり、かつβ遮断薬を投与中の人には医療機関での接種を推奨している。

ヒスタミンH1受容体拮抗薬の予防的投与は避けて

 ワクチン接種を行う場合に準備が必要な医薬品や医療備品もリストとして記載。①血圧計、静脈路確保用品、輸液セット②アドレナリン注射薬0.1%(2本以上)③生理食塩水20mL(5本以上)/500mL(2本以上)④ヒスタミンH1受容体拮抗薬(5錠以上)⑤副腎皮質ステロイド薬注射薬(2本以上)-を挙げた。これらに加え、ハイリスク症例に接種する際には標準的な救急カートの他に、①パルスオキシメーター②酸素ボンベ、経鼻カニューレ、使い捨てフェイスマスク③挿管セット④ヒスタミンH1受容体拮抗薬注射薬(2本以上)⑤吸入短時間作用性β2刺激薬とスペーサー(2セット以上)⑥ グルカゴン(β遮断薬を投与中で、アドレナリンが無効の場合に使用)―を備えることが望ましいとした。

 このうち、ヒスタミン H1 受容体拮抗薬の使用の注意点にも触れており、予防的な投与は「かえってアナフィラキシーの初期症状を不明瞭にしてしまう危険性があるため好ましくない。ただし、他の疾患に対して投与中のヒスタミン H1 受容体拮抗薬を中止する必要はない」とした。コントロール不良の喘息患者がアナフィラキシーを来した場合には重症化するリスクがあるとして「それに対応できる医療機関での接種が望ましい」と付記した。

 アレルギー反応が現れた例への対応については、注射部位以外の皮膚・粘膜症状(蕁麻疹、皮膚の発赤・紅潮、口唇・舌・口蓋垂の腫脹や刺激感、眼の痒み・眼瞼腫脹、くしゃみ・鼻汁・鼻の痒み・鼻閉などの鼻炎症状、アレルギー性鼻炎患者は明らかな症状の増強)が出現した場合には「ヒスタミン H1 受容体拮抗薬を内服させて症状が改善するまで観察する」ことを求めた。症状が改善しない場合には最寄りの医療機関受診を指示し、症状が増強してアナフィラキシーが疑われる場合は診断を受け、適切に対応するよう明記している。

 一方、ワクチン接種後30分以内あるいはアレルギー反応の観察中に、①アレルギーを疑わせる皮膚・粘膜症状②気道・呼吸器症状(喉頭閉塞感、呼吸困難、喘鳴、強い咳嗽、低酸素血症)③強い消化器症状(腹部疝痛、嘔吐、下痢)④循環器症状(血圧低下、意識障害)―のうち2つ以上の症状が発現した場合にアナフィラキシーと診断されるとした。

 診断後の具体的な対応法も示し、①発症時は急に座ったり立ち上がったりする動作を禁止する②原則として仰臥位で下肢を挙上させるが、嘔吐や呼吸促(窮)拍の場合には、本人が楽な姿勢にする③アナフィラキシーの第一選択治療はアドレナリン(商品名ボスミン)の筋肉注射であり、「アナフィラキシーが疑われた」時点で可能な限り速やかに大腿部中央の前外側等にボスミンまたはエピペンを筋肉に注射する(誤って血管内投与はしないよう気を付ける)ーなどを行うよう求めた。同時に、酸素吸入と生理食塩水の急速点滴投与、呼吸困難が強い場合は短時間作用性β2刺激薬の吸入も実施し、初期対応で症状が安定しても、二相性反応の発生に備えて入院することを推奨している。

(小沼紀子)