ニュージーランド・University of AucklandのRalph AH. Stewart氏らは、急性冠症候群(ACS)患者に対する酸素供給の便益と害について高流量と低流量で比較する4万例超のクラスタークロスオーバーランダム化比較試験(RCT)を実施。その結果、30日死亡リスクは同等であったことなどをBMJ2021; 372: n355)に報告した。

全国4つのクラスターで割付群を交差

 ACS疑い患者への酸素投与の便益を検討した大規模RCTは乏しい上、RCTには比較的低リスクの患者や正常酸素飽和度の患者の登録が多い、最終診断別の解析が実施されていないなどの限界があり、エビデンスは不十分であった。

 Stewart氏らは、高流量酸素投与の便益と害を明らかにするために、ACS疑い患者を高流量酸素プロトコル群と低流量プロトコル群にランダム化するRCTを実施した。対象は、全国規模のACS診療の質的改善レジストリに登録しているACS疑い例または確定診断例と、未登録だが試験期間中にACS疑いで救急搬送された例の計4万872例。

 高流量群では経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)の値にかかわらず、虚血症状または心電図の変化に応じて酸素マスクでは6~8L/分、鼻カニュラでは4L/分の流量で投与。低流量群ではSpO2が90%未満となったときのみ投与し、SpO2 95%未満を目標値として流量調節した。全国を4区分したクラスターごとに、定期的に割り付け群をクロスオーバーさせた。

 ST上昇型心筋梗塞(STEMI)か非STEMIの最終診断は、レジストリの記録および退院時の国際疾病分類第10版(ICD-10)の病名に基づき行った。主要評価項目は30日全死亡率とし、死亡登録データとリンクさせて特定した。

全体・サブグループともに高流量投与の便益示されず

 2万304例が高流量プロトコルで、2万568例が低流量プロトコルで酸素投与を受けた。患者背景は両群で同様だった。30日全死亡率は、高流量群が3.0%(613例)、低流量群が3.1%(642例)で、年齢、性、居住地域、ACS診断を調整後のオッズ比(OR)は0.96(95%CI 0.86~1.08、P=0.50)であった。

 最終診断は、STEMIが4,159例(10%)、非STEMIが1万218例(25%)で、全体の約3分の2が心筋梗塞ではなかった。診断別の30日全死亡率は、STEMIの高流量群が8.8%(178例)、低流量群が10.6%(225例)で(調整後OR 0.78、95%CI 0.63~0.97、P=0.027)、非STEMIの高流量群が3.6%(187例)、低流量群が3.5%(176例)であった(調整後OR 1.02、95%CI 0.83~1.27、P=0.84)。

 STEMIのサブグループでは、高流量投与で30日全死亡率が若干低かったが、1年全死亡率に差は見られなかった。また、死亡例は救急搬送時のSpO2が低かったが、SpO2を調整した解析でも高流量投与群における30日全死亡率のORは変わらなかった。

 Stewart氏らは「ACS疑い患者に対する虚血症状または心電図の変化に応じたルーチンの高流量酸素投与には、便益も害もないことがあらためて確認された」と結論している。

(小路浩史)