社会的孤立(social isolation)が公衆衛生上の優先課題として浮上しており、健康への影響が注目されている。英・University of OxfordのRobert W. Smith氏らは、英国の2件の大規模前向き研究から抽出した93万例超のデータを解析。独居または家族・友人などとの交流がないことは、冠動脈疾患または脳卒中の初発リスクへの直接的な影響はほとんどないとの結果が示唆されたとLancet Public Health2021; 6: e232-e239)に発表した。一方、特に独居者ではおそらく救命措置が遅れるため、これらのイベントが致死的となるリスクが非独居者に比べて60%上昇する可能性が示された(関連記事「孤立・孤独は深刻な健康リスクである」「高齢者の社会的孤立は入院の危険因子」)。

孤立単独で心血管リスクを検討

 同居家族の有無や社会的交流の頻度を客観的に評価した「孤立」と、主観的評価である「孤独」の両方の指標を用いた研究を含むメタ解析では、孤立・孤独と冠動脈疾患および脳卒中発症との関連が示されている(Heart 2016; 102: 1009-1016)。しかし、孤立が単独でこれらのイベントに影響を及ぼすかどうかについては、一貫した見解は得られていない。そこでSmith氏らは、英国の2件の大規模前向き観察研究データを用いて社会的孤立レベルを点数評価し、致死的/非致死性の冠動脈疾患および脳卒中の初発リスクとの関連を検討した。

入院を伴う初回イベントとの関連は弱い

 解析対象は、英国の乳がん検診対象の女性を登録したMillion Women StudyとUK Biobank (女性56%)から抽出した、冠動脈心疾患および脳卒中の既往歴がない参加者それぞれ48万1,946例(平均年齢68±5歳)と45万6,612例(同57±8歳)の計93万8,558例(同63±9歳)。平均7年の追跡期間中に初回冠動脈疾患4万2,402例および初回脳卒中1万9,999例が発生した。致死的なものは、それぞれ1,834例と529例で、これらのイベントに伴い入院していなかった。

 ベースライン時(中央値2010年、四分位範囲2009~11年)の社会的交流に関する質問調査で、孤立レベルが最大、中等度、最小と評価されたのはそれぞれ14%、46%、40%。最大群は、最小群に比べて貧困地区に住み、肥満、喫煙者、身体的不活発、主観的な健康状態が不良の割合が高かった。

 Cox回帰分析の結果、年齢、性、研究、居住地域、経済状況、喫煙、飲酒、BMI、身体活動量、主観的な健康状態を調整後、入院を伴う初回イベントでは、孤立レベルと冠動脈心疾患/脳卒中リスクの間に弱い関連が示された。孤立レベル最小群に対する最大群の統合リスク比(RR)は、冠動脈疾患で1.01(95%CI 0.98~1.04)、脳卒中で1.13 (同1.08~1.18)と推定された。

病院到着前死亡リスクは1.6倍上昇

 一方、これらの初回イベントで病院到着前に死亡するリスクは、孤立レベル最小群に対し最大群では冠動脈疾患で86%(RR 1.86、95%CI 1.63~2.12、P<0.0001)、脳卒中で91%(同1.91、1.48~2.46、P=0.0003)有意に上昇した。

 また、初回の冠動脈疾患/脳卒中による死亡リスクは、非独居者に比べて独居者で60%上昇し(RR 1.60 、95%CI 1.46~1.75)、家族・友人または社会的交流がほとんどない者(月に数回以上の交流がある者との比較、同1.27、1.16~1.38)よりも大きかった。これらの結果は、研究間または主観的な健康状態にかかわらず一貫していた。

独居者の緊急通報が課題

 以上の結果から、Smith氏らは「社会的孤立が冠動脈疾患または脳卒中の初発リスクに直接的な影響を及ぼすことはほとんどない。しかし、おそらく緊急通報の支援がないため、孤立は初回イベントにより病院到着前に死亡するリスクを高めることが示唆される。独居で心血管リスクが高い集団を対象に、個人用緊急通報システムの死亡率減少効果を評価するランダム化試験を行う必要がある」と結論している。

 日本では、市町村が提供する独居者や高齢者世帯向けの緊急通報システムがある。同氏らは、地域における個人用通報装置の研究に言及、「サンプルが小さい傾向にあり、心血管イベントよりも転倒リスクや使用経験の評価が中心だ」と指摘している。

 日本政府は今年(2021年)2月、孤独・孤立対策担当室を新設。女性の自殺者数の急増など、新型コロナウイルス感染症の流行下で顕在化した問題への取り組みを進めるとしている。自殺防止や高齢者・小児の見守りに加え、孤立が循環器救急に及ぼす影響についても対策を講じることが望まれる。

  • 社会的孤立の評価:①世帯人数②家族③友人④スポーツクラブやパブ通い、文化活動などの集団参加―の4項目を点数化した合計点で0点(最小)、1(中等度)、2~3点(最大)に分類。①は独居で1点、②~④は連絡や交流がほとんどない、または月1回の場合に1点を加算した(②と③は両方当てはまる場合に1点を加算)

(坂田真子)