小腸では、内壁を覆う絨毛(固有の突起構造)が食物の消化・吸収に大きな役割を果たしている。一方、大腸には突起構造がなく栄養の消化・吸収はほとんどできないが、絨毛の突起構造が小腸でのみつくられるメカニズムは解明されていなかった。慶應義塾大学坂口光洋記念講座(オルガノイド医学)教授の佐藤俊朗氏らは、上皮を剝がした大腸に三次元構造体(オルガノイド)として培養した小腸上皮を移植し、小腸特有の吸収・蠕動機能などを備えた大腸(小腸化大腸)を作製する技術を開発したと、Nature(2021年2月24日オンライン版)に発表した。

小腸移植の実績は約30件と少ない

 小腸の表面は上皮細胞で覆われており、効率的な消化・吸収を行う絨毛と呼ばれる長さ0.5mm程度の無数の突起が存在し、絨毛の間には陰窩が存在する。陰窩の底部にある腸管上皮幹細胞は小腸上皮の再生機構をつかさどり、体内で最も速い上皮の新陳代謝を可能とする。腸管上皮幹細胞は、生涯複製を繰り返し(自己複製能)、腸組織のあらゆるタイプの細胞に分化し(多分化能)、陰窩から絨毛へと移動する。

 クローン病などで小腸を大幅に切除すると、消化吸収機能障害が永続する短腸症候群を発症することがある。残存する小腸を切り合わせて長さを延長する手術や、海外ではGLP-2製剤投与により腸の絨毛の発育を促す薬物治療が行われるがいずれも効果が不十分で、根治療法は健全な小腸を他人から移植する小腸移植しかない。

 しかし、小腸は他の臓器より拒絶反応が強く移植片の生着率や生存率が低いため、国内での小腸移植の実績はこれまでわずか30件程度にずぎない。また、移植成功例でも拒絶反応の懸念や免疫抑制薬投与に伴う感染症、悪性腫瘍の発生などの問題がある。他の臓器では移植件数が増加している中、小腸移植はなお少数にとどまり、革新的な新規治療法へのニーズが大きい。

大腸の上皮を小腸に入れ替え

 佐藤氏らは、これまでに腸の上皮から調製した腸管上皮幹細胞をオルガノイドとして永続的な培養が可能な技術を確立した。オルガノイドは、ヒトの腸細胞をそのまま培養する組織幹細胞であり、移植細胞としての可能性が期待される。しかし、ヒトの小腸上皮細胞の集合体から小腸を作製することはできず、ヒトの正常な腸管上皮細胞を移植することは技術的に困難だった。

 しかし最近、免疫不全マウスの大腸上皮を剝離してヒト大腸上皮に入れ替えることで、マウスにヒト正常大腸上皮を構築する技術の開発に成功。この技術を応用し、短腸症候群患者の大腸上皮を培養した小腸上皮に入れ替える再生医療を実現できないかと考えの下、今回の研究を実施した(図1)。

図1. 小腸化大腸の作製

27547_01pho.jpg

 まず、マウスの大腸上皮を剝離してヒト小腸上皮の移植を試みたところ、移植した小腸上皮は大腸上皮の移植時とは異なる絨毛構造を形成し、小腸にしか見られない消化・吸収に関わる蛋白質の発現および吸収に重要な微絨毛の形成が確認できた。さらに、脂質の吸収に重要な乳び管と呼ばれる小腸に特有なリンパ管が、小腸上皮の移植によって大腸でも形成されることを確認した。これにより、上皮を入れ替えた小腸化大腸は、栄養の消化・吸収機能を有し、乳び管様構造を通して体内に運搬できることが分かった(図2)。

図2. 小腸化大腸の絨毛と消化吸収機能

27547_02pho.jpg

 一方で、マウスの肛門付近の直腸部に移植して形成されたヒト小腸上皮の絨毛構造は、本来のものと比べて未熟で、不十分な状態だった。ヒトの腸管内容物は小腸を液状で通過し、大腸へと進むにつれ水分や塩類を吸収し糞便として固形化する。そのため、大腸の最後の部分に当たる直腸の近傍では腸液の「流れ」が不十分であることで、絨毛構造の形成が促進されない可能性が考えられた。

 そこで佐藤氏らは、大腸と小腸のオルガノイドをシート状に培養し、細胞が平面的に広がった状態で培養液を人工的に攪拌することで「流れ」をつくり、この環境下でさらに培養を行った。その結果、小腸オルガノイドは管腔側に突出する絨毛様の構造を形成した。一方、大腸オルガノイドではそのような変化は見られず平面のままであり、「流れ」に依存する小腸上皮に特有の絨毛形成メカニズムが存在することが示唆された。

小腸上皮オルガノイドの移植効果を短腸症候群のラットで検証

 次に、これらの知見を基に小腸上皮オルガノイドを用いた短腸症候群の治療可能性を検証するため、ルシフェラーゼ(発光物質)を発現するラットの小腸の細胞から樹立した小腸オルガノイドを移植した小腸化大腸を作製し、通常のラットへの移植実験を行った。 まず、栄養血管の血流を保ったまま大腸の一部を切り離し(図3)、大腸の上皮を剝離して小腸オルガノイドを移植した。

図3. ラットでの小腸化大腸の治療効果の実証 

27547_03pho.jpg

(図1~3とも慶應義塾大学プレスリリース)

 さらに、この移植片を腹壁に縫合し、上皮が生着し成長するまでの間、血流を維持しつつラットの体内で保存した。この手法により、便の通過がない状態で移植した小腸上皮細胞が大腸組織に生着するまで流されずに済み、広範な小腸オルガノイド移植が可能となった。 

 しかし、腹壁に縫合した状態では移植後の小腸上皮表面に「流れ」が発生しないため、十分な絨毛が形成されなかった。そこで、全小腸を切除して短腸症候群を再現したラットを用い、小腸に隣接し腸管内に「流れ」が存在する部位である回腸末端部に移植を実施。移植後に「流れ」のある環境で分化・成熟したオルガノイド由来の腸上皮細胞が形成する構造および移植片の機能、短腸症候群に対する移植の効果について、小腸上皮オルガノイドと大腸オルガノイドを比較検討した(図3)。

 その結果、小腸オルガノイド移植群では生存期間が延長し、生存ラットでは移植細胞の広範な生着、絨毛の形成が確認できたのに対し、大腸オルガノイド移植群では生存期間の延長は認められなかった。小腸オルガノイド移植群の移植片はマウスでの実験と同様に、乳び管、血管の形成や神経伝達を伴う腸管蠕動運動が認められ、脂質、糖、ペプチドなどの吸収能を持つ機能的な小腸化移植片であることが確認できた。

 以上を踏まえ、佐藤氏らは「小腸オルガノイドを大腸の上皮と置換した小腸化大腸を移植する戦略は、体長が大きなヒトにおいても応用可能と考えられ。今後、本人由来のオルガノイドを用いた免疫抑制薬を必要としない新規治療法開発への道筋となることが期待される」と述べている。

編集部