非小細胞肺がん(NSCLC)の3~5%を占めるALK融合遺伝子陽性肺がんの治療では、薬剤耐性の出現が大きな問題となる。耐性機序の研究の進展に伴い、耐性克服を目的とした分子標的薬が相次いで登場したが、第三世代ALK阻害薬ロルラチニブで治療した場合でも、既存のALK阻害薬が効かない重複変異が出現し、これまで打つ手がなかった。がん研究会がん化学療法センター(東京都)基礎研究部部長の片山量平氏らの研究グループは、そうした腫瘍に対し急性骨髄性白血病治療薬ギルテリチニブが有効であることを動物実験で確認したとNat Commun2021;12: 1261)発表した。

第三世代のALK阻害薬の「重複耐性」が問題に

 ALK融合遺伝子陽性のNSCLCに対する標準治療薬はALK阻害薬で、国内では第一世代から第三世代まで5種類の薬剤が承認されている。一次治療では第一選択薬として第二世代のアレクチニブが広く用いられているが、高い有効性が認められる一方で、薬剤耐性が現れることが問題となっている。中でもG1202R、I1171Nの変異が高頻度で見られることが報告されている。

 これらの耐性変異を有するNSCLCに有効とされるのが、第三世代のロルラチニブだ。ただし、同薬で治療を続けると、同様に耐性変異が生じることが分かってきた。その原因として、同一ALK遺伝子内に2つ以上の変異が生じる「重複変異」の存在がある。重複変異体の一部では、第一、第二世代のALK阻害薬が有効なものもあるが、G1202R+L1196M重複変異体やI1171N+F1174I重複変異体などは、いずれのALK阻害薬に対しても抵抗性を示すため、新たな治療法が求められている。

動物実験で腫瘍縮小効果を確認

 研究グループはマウス細胞を用いて化合物ライブラリーのスクリーニングを行った。その結果、ALK融合遺伝子陽性NSCLCであらゆるALK阻害薬に耐性を示すALKのI1171N+F1174IおよびI1171N+L1198H重複変異体が、ギルテリチニブに感受性を示すことを発見した。

 そこで、ALK融合遺伝子陽性NSCLC患者由来の細胞にI1171N+F1174I変異体を導入した細胞株を樹立し、マウスに皮下移植した実験においてALK阻害薬(アレクチニブ、ロルラチニブ)とギルテリチニブの有効性を比較した。すると、ALK阻害薬は投与開始後約20日で腫瘍の再増殖が見られたのに対し、ギルテリチニブ群では腫瘍縮小効果が50日以上継続したこ。

 次に、京都大学大学院人間健康科学ビッグデータ医科学分野教授の奥野恭史氏らとの共同研究により、ギルテリチニブがどのようにALKに結合しているのかを調べた。研究グループは、これまでにロルラチニブの高度耐性を誘導しているとされるALKのL1198F変異が、ギルテルチニブの感受性を亢進することを見いだしていた。今回、スーパーコンピュータを用いた蛋白質構造シミュレーションの結果、L1198F変異によって、側鎖のフェニル基とギルテリチニブが相互作用し、結合が安定化することで薬剤感受性を高めることが示唆された。

 肺がんの原因遺伝子としては、ALK以外にROS1やNTRK1などが知られているが、研究グループはこれらの融合遺伝子を有する肺がんや大腸がんに対するギルテリチニブの有効性を動物実験で検証。その結果、ギルテリチニブ非投与群に比べ投与群で有意な腫瘍縮小効果が認められたとしている。

(小沼紀子)