日本感染症学会は「COVID-19ワクチンに関する提言(第2版)」(以下、第2版)を策定し、2月26日に公開した。現在までの国内外の情報を踏まえると、「海外で接種が進んでいるファイザーやモデルナのメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンの有効性は高く、副反応も一過性のものに限られ、アナフィラキシー以外に重篤な健康被害は見られていない」と報告。一方、米国の調査では両ワクチンを合わせたアナフィラキシーの発生頻度は100万接種当たり4.5回と紹介。発生例の94.5%を女性が占めており、特に「薬剤や化粧品へのアレルギー既往者では注意が必要」と明記した。ワクチンの長期的な有効性や安全性については不明な点はあるものの、「COVID-19の終息に向け、国内で承認された新型コロナウイルス(SARS‐CoV-2)ワクチンを接種することが望まれる」と強調した。

75歳以上の高齢者、基礎疾患がある人での有効性は検討課題

 「COVID-19ワクチンに関する提言」の第2版は、昨年(2020年)12月28日に公開した第1版にSARS‐CoV-2ワクチンの有効性と安全性に関する新たな知見や注意すべき点などを加えたもの。

 国内ではファイザーのコロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチンであるトジナメラン(SARS-CoV-2)(商品名コミナティ)が国内初のワクチンとして特例承認を取得し、2月17日に医療従事者への接種がスタートした。それ以外に、日本で導入が見込まれているのは、アストラゼネカ(AZ、承認申請中)、モデルナ(mRNA-1273、武田薬品が国内で臨床試験開始)、ジョンソンエンドジョンソン(J&J、国内で第Ⅰ相試験)、ノババックス(武田薬品が製造販売予定)、塩野義製薬(第Ⅰ/Ⅱ相試験中)、アンジェス(第Ⅱ/Ⅲ相試験中)などのワクチンである。

 それぞれ特徴は異なっており、例えばファイザー、モデルナが開発を手がけるのはmRNAワクチン、AZ、J&Jが開発中のものはウイルスベクターワクチンである。

 提言では、ファイザー、モデルナ、AZが開発中の3種類のワクチンの高齢者に対する有効性について、75歳を超える高齢者に対しては臨床試験での評価対象者数が不十分などの理由から「今後の検討課題」との見方を提示。また、基礎疾患がある人に関しても、いずれのワクチンの臨床試験においても患者の割合が20%台にすぎず、「評価は十分でなく今後の検討が必要」との見解を示した。さらに、いずれのワクチンの臨床試験でも被験者は白色人種が大半を占め、アジア系の割合は4.2%、4.3%、2.6%と少数だったとし、「有効性に人種差が影響する可能性も想定される。国内での臨床試験の結果が重要だが、国内のCOVID-19罹患率は海外に比べて低いため、評価にはかなりの時間を要する」とした。

アナフィラキシーの発生例の94.5%は女性

 一方、トジナメラン接種時の安全面の注意点として、接種部位の腫脹、痛みなどの局所反応、一定の頻度で一過性の発熱や倦怠感など見られる他、ごくまれに接種直後のアナフィラキシーショックといった重篤な健康被害の発生が報告されているとした。

 海外でトジナメラン、mRNA-1273の接種が進む中で、両ワクチンでのアナフィラキシーの発生数や発生しやすい人についても言及。米国の調査では、アナフィラキシーの頻度は100万接種当たりトジナメランが11.1回、mRNA-1273が2.5回であり、「全てのワクチンでの1.31回に比べて高い」と考察した。

 両ワクチンのアナフィラキシーに関する報告を分析したところ、女性が94.5%を占め、アナフィラキシーの既往がある人の割合は38.7%であった。発生時期については、接種後15分以内が77.4%、30分以内が87.1%だった。症状は、大半が皮膚症状と呼吸器症状を伴うものであり、アナフィラキシーショックを疑う血圧低下は1例のみだったという。その後の米国における調査では、アナフィラキシーの発生頻度は、両ワクチンを合わせて100万接種当たり4.5回とされている。

 提言では、アナフィラキシーの原因としてmRNAワクチンの特徴との関連を挙げている。mRNAワクチンは人体や環境中のRNA分解酵素により簡単に破壊されるため、構造の改変・最適化を行った後、分解を防ぐために脂質でできた脂質ナノ粒子(LNP)で包んでカプセル化している。LNPによって人の細胞内にmRNAが取り込まれやすくなるのだという。

 アナフィラキシーの原因物質の一つに、LNPの表面に存在するポリエチレングリコール(PEG)が挙げられており(IgEを介した即時型アレルギー反応が推定されている)、第2版では「PEGは薬剤や化粧品などに広く使用されているため、これらへのアレルギーの既往を持つ人では特に注意が必要だ」としている。

重篤な副反応は9.2%、2回目接種後に高頻度に発生

 今年2月19日に米国でトジナメランの1回目、2回目、mRNA-1273の1回目の安全性調査の結果が発表されており、第2版ではこのデータついても紹介した。

 それによると、両ワクチンは観察期間中に約138万回接種され、受動的なサーベイランスシステムであるVAERSに6,994例の副反応報告があった。このうち頻度の高い副反応は、頭痛22.4%、 倦怠感16.5%、めまい16.5%、悪寒14.9%、嘔気14.8%。重篤な副反応が9.2%に見られ、死亡が1.6%報告された。死亡例は高齢者施設の接種者に多く見られたが、ワクチンとの明らかな関連が認められた事例はなかった。なお、トジナメランでは2回目の接種で副反応の頻度が高いという。

 さらに、ワクチンによる直接的な副反応とはいえないが、接種者が標的とした病原体による病気を発症した場合に、非接種者よりも症状が増悪するワクチン関連疾患増悪(VAED)という現象にも注意が必要とした。COVID-19と同様にコロナウイルスが原因であるSARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)のワクチンの動物実験でも、一部にVAEDを示す結果が認められている。

 第2版では、「SARS-CoV-2ワクチンの動物実験や臨床試験では、これまでVAEDを示唆する証拠は報告されていない」としつつも、「将来的に注意深い観察が必要」と指摘。なお、トジナメランをアカゲザルに2回接種しSARS-CoV-2に曝露させた実験では、接種群ではVAEDは出現せず、VAEDやワクチンによって誘導された抗体を介し感染が増強する抗体依存性増強(ADE)に関連するとされるTh2優位型の免疫誘導も見られなかったとした。

英国変異株で感染力上昇も、トジナメランの有効性に大きな影響なし

 日本国内においても、英国、南アフリカ、ブラジルで検出されたものと同じ型のSARS-CoV-2変異株への感染例が報告されており、ワクチンの変異株に対する有効性に懸念が指摘されている。

 第2版では、英国変異株N501Y変異を持つ英国変異株(B.1.1.7系統、VOC202012/01)によって、「感染力(伝播力)が36%から75%に上昇すると推定されている」としつつ、トジナメランに関しては「ワクチンで誘導される抗体による中和作用には若干の減少が見られるが、ワクチンの有効性に大きな影響はないとされる」とした。

 一方、南アフリカの変異株(B.1.35系統、VOC202012/02) とブラジルの変異株(B.1.1.28 系統、P.1)で見られるE484K変異のワクチンの有効性への影響については、「COVID-19回復期抗体の中和作用から回避する変異であることが報告されており、ワクチンの有効性に影響が出ることが懸念されている。実際、トジナメラン2回接種後に誘導される抗体の中和活性は、E484K変異を持つSARS‐CoV-2では幾何平均で3.4分の1に低下することが報告されている」と懸念を示した。

 前述の変異株以外にも、2月12日時点で、国内では起源国が不明なE484K変異を有する新たなB.1.1.316系統の株が空港検疫で2件、関東全域の91件から検出されていると報告。「今後の感染拡大に注意するとともに、ワクチンの有効性の監視が重要」と注意を喚起した。

(小沼紀子)