光免疫療法と並んで、「第5のがん治療」と期待されるホウ素中性子捕獲療法(BNCT)。バイオダイナミックス研究所理事長の前田浩氏(熊本大学名誉教授、東北大学特別招聘プロフェッサー)らは、BNCTに用いるホウ素製剤の高分子化に成功したと発表した(Biomaterials 2021; 269: 120631)。これにより、副作用を大きく減少し、より強力ながん治療が可能になるという。今年(2021年)1月に臨床応用が始まった光免疫療法(関連記事「光免疫療法がもたらす頭頸部がん治療の未来」)に注目が集まっているが、「第5のがん治療」争いが熾烈化するかもしれない。

低分子型製剤に比べ、担がんマウスで10~20倍の抗がん作用

 BNCTはホウ素と中性子線との核反応の結果生じるα線により、がん細胞を殺傷する新しいタイプの放射線療法。外科治療、化学療法、放射線療法、免疫療法に続く第5のがん治療の1つとして、期待されている。BNCT用のホウ素製剤としては昨年(2020年)3月、ボロファラン(10B)が世界に先駆け日本で初承認され、5月に発売されている。

 BNCTでは患者にホウ素製剤を投与した上で、中性子線の照射を行うが、ホウ素製剤をいかにがん細胞に集積させるかが臨床応用の鍵であった。ホウ素製剤が正常組織にも分布すると、中性子線照射時に正常組織にも傷害が及ぶ。ところが、前田氏らによると、これまでBNCTに用いるホウ素製剤には低分子化合物しかなく、正常組織にもがん組織にも同様に分布することが問題であった。

 同氏は1986年に、高分子型抗がん薬を静脈内投与すると通常の低分子薬剤に比べ10~50倍も腫瘍選択的に集積する現象「EPR効果(enhanced permeability and retention effect)」を発見したことで知られる(Cancer Res 1986;46:6387-6392)。今回、同氏らはEPR効果に基づいて、ホウ素含有の高分子型ミセル(SGB-ミセル)を開発した。SGB-ミセルは従来の低分子型ホウ素製剤と比べ、10~20倍がん局所に集中させることができる。

 実際、がん細胞を用いた実験では、低分子型に比べSGB-ミセルによるBNCTはin vitroで約16倍、担がんマウスでは10~20倍の抗がん作用が認められた。同氏らは、皮膚、造血器腫瘍など主要臓器に対する副作用は皆無であったことを強調している。

 なお、SGB-ミセルは、α線によるがん細胞殺傷作用以外にも、①高度進行がんが依存しているエネルギー源である解糖系を抑制②がん細胞のミトコンドリアを障害―という新たな作用機序も併せ持つという。

中性子線源の超小型化も実現

 これまで、BNCTに用いる中性子線源には原子炉か大型加速器が想定されており、極めて高価であった。しかし最近、福島県のベンチャー企業(福島SiC応用技研)が超小型化に成功し、価格も使用電力も従来の装置の10分の1に抑制している。

 前田氏らは、同社および筑波大学、神戸大学、熊本大学、大阪大学、東北大学と共同研究を始めている。同氏らは「BNCTのより広い実用化が見えてきた」と展望している。第5のがん治療の首座をめぐり、BNCTと光療法の争いが熾烈化するかもしれない。

平田直樹