免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の治療効果を予測するバイオマーカーの探索は多数行われているが、いまだ確立されたものはない。北海道大学大学院免疫学分野免疫学教室教授の小林弘一氏らの研究グループは、免疫系遺伝子であるNLRC5に着目。ICIを用いたがん治療における効果を予測する方法を開発したとSci Rep(2021; 11: 3258)に発表した。

ICIはコストが高い一方で、奏効患者は多くない

 ICIは、ヒトの免疫系の活性化を介してがん細胞を駆除する画期的な抗がん薬であるが、解決すべき問題も多い。まず挙げられるのが高額な医療費で、米国ではICI治療に5,000万円近くがかかるため、富裕層しか受けることができない。わが国では、国民皆保険と高額療養費支給制度により希望するがん患者の多くがICI治療を受けられる一方で、健康保険制度を圧迫する要因となっている。

 またICIによる有害事象の問題もある。ICI単独で約25%、抗PD-1抗体+抗CTLA-4抗体併用により約50%の患者で皮膚、腸、肺、肝臓、膵臓、心臓などに自己免疫疾患が発生、中には生命に関わる重篤な症状を来すこともある。 さらに、必ずしも全ての患者で治療効果が認められるわけではなく、抗PD-1抗体単独療法の奏効率は、治療効果が最も期待できる悪性黒色腫でも20~30%にすぎない。このように高額な治療費や有害事象を考慮すると、治療前に効果を予測し、奏効が期待できる患者の同定が求められる。

 治療予測の重要性については早くから認識され、各国で治療予測の指標となるバイオマーカーの開発が進められてきた。PD-1やCTLA-4、これらに類似するPD-L1、PD-L2などの阻害分子が代表的だが、現時点で信頼度が高いものはなく、治療効果の予測には不十分であった。

NLRC5の機能・発現低下に伴いがん免疫応答が低下

 免疫細胞ががん細胞を攻撃して排除するには、免疫細胞ががん抗原を認識する必要があるが、ヒトの細胞はがん抗原やウイルス抗原といった内部にある抗原を免疫細胞に提示するための分子(MHCクラスI)を持っており、MHCクラスIの構成には免疫遺伝子であるNLRC5が関与している。

 研究グループはこれまで、がん患者の多くではNLRC5の機能低下や発現消失によりMHCクラスIの発現が低下し、がんに対する免疫応答が低下することを発見している。今回はNLRC5に注目、イピリムマブを投与した転移性メラノーマ患者37例を対象として、NLRC5の発現レベル別のICI治療効果を検証した。

 RECIST基準に基づき完全奏効(CR)、部分奏効(PR)または全生存期間(OS)1年以上の安定(SD)を「治療効果あり」、増悪またはOSが1年未満のSDを「治療効果なし」と定義して解析した。その結果、イピリムマブによる治療効果はベースライン時にNLRC5が高発現だった患者群では高い頻度で認められたのに対し、低発現の患者群では低かった。

 また、NLRC5 発現とPD-L2発現やがん抗原量などの既存のバイオマーカーを組み合わせると、より明確に治療効果がある患者群とない患者群に分けることが可能だった。NLRC5発現を他のバイオマーカーと組み合わせる手法は、治療効果予測だけではなく、5年生存率の予測能にも優れることが分かった。

 同じ手法を用いて、抗PD-1抗体による治療を受けたメラノーマ患者41例(ニボルマブ9例、ペムブロリズマブ32例)を解析した結果、同様にNLRC5発現は治療および予後予測のバイオマーカーとして有用であることが示された。

 以上を踏まえ、研究グループは「NLRC5を用いてICIの治療効果を効率的に予測することで、効果が期待できる患者では積極的に使用することができる。一方、効果が期待できないと判断された患者では、不要なICI投与を回避し、他の治療法を選択できる」としている。現在、手術適応がない進行がん患者に対するICIは、治療効果があるかどうか予測できないままに使うケースがほとんどであり、今後は治療開始時に精度が高いバイオマーカーを用いて効果を予測し、治療法を選択するように変わっていくことが期待されるという。

編集部