アトピー性皮膚炎(AD)患者は年々増加しており、以前は小児の疾患と捉えられていたが、近年では成人患者が増えている。ADの動向や最新の治療法などについて、広島大学大学院皮膚科学教授の秀道広氏が、1月22日にオンラインで開かれたプレスセミナー(主催:日本イーライリリー)で解説した。同氏は「現在では重症ADに対して抗体薬治療という新たな選択肢が登場している。それらを含めて患者のQOLを考慮し、個々の患者の病状やニーズ、負担を総合的に考えた治療が必要」と述べた。

患者の皮膚は水分が蒸発し乾燥肌に

 日本皮膚科学会と日本アレルギー学会では「ADは増悪・軽快を繰り返す瘙痒のある湿疹を主病変とする疾患であり、患者の多くはアトピー素因を持つ」と定義している。ADの最も特徴的な症状は痒みだが、その結果として睡眠障害や皮膚の疼痛などが生じうる。QOLが大きく阻害されて欠勤や労働時間の減少につながり、外見的な問題から抑うつ状態になる患者も少なくない(J Dermatol 2018; 45: 390-396)。また、他のアレルギー疾患をしばしば合併する。

図. 過去12カ月の抑うつ、不安障害、睡眠障害の経験

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J Dermatol 2018; 45: 390-396)

 AD患者の皮膚ではマスト細胞(肥満細胞)が増え、皮膚炎が重症なほど血中IgE濃度が高い。秀氏は「特に小児では、特定の食物を食べた後の皮膚炎の悪化をしばしば経験する。ただし、年齢が上がると食物アレルギーはあっても反応が一過性になり、湿疹にはならない。アレルギーというだけでADというわけではない」と指摘した。

 ADでは皮膚の乾燥が見られ、症状のコントロールには保湿が重要である。健康な肌では角層で水分が保持されているが、乾燥肌では角層の働きが低下しているため水分が簡単に蒸発してしまう。ADの外皮は乾燥状態でさまざまな物質を分泌し、それにより刺激の感受性が強くなる。また、ADの一部の患者では、皮膚のバリアをつくる遺伝子(フィラグリン)に異常があり角層が乾燥しやすい。

瘙痒、アレルギー、バリア障害が3要素

 秀氏は「しかし、乾燥だけがADの本質というわけではない」と述べた。ADは固有の過敏性、脆弱性を有しており、瘙痒(掻破)、アレルギー、バリア障害の3要素によって、炎症がもたらされることが特徴である。炎症はさまざまな疾患で発現するが、ADはType1の特徴を持つ炎症である。そのため、治療では①ステロイドやタクロリムスなどによる炎症を抑制する薬物療法②バリア機能を是正するスキンケア③その他の原因や悪化因子の探索と対策−を三本柱として取り組むことになる。

 まずは強力な薬物療法を行い、炎症を沈静化する。改善してきたら、薬剤を弱めにして保湿剤のみにするというのが、古典的なAD治療の基本形である。しかし、この治療法ではあまり効果が表れず、症状の抑制と悪化を繰り返す人が多い。そのため、時間経過を考えその中でしっかり治療をすることが推奨されている。

 ADなどType1の炎症では、Th2細胞(ヘルパーT細胞)からインターロイキン(IL)-4やIL-13、IL-31などのサイトカインが多く放出されている。IL-4やIL-13は皮膚のバリアをつくるフィラグリンを抑制するため、それらが多く放出されると皮膚のバリア機能が低下する。IL-31は神経に作用し、瘙痒を引き起こす。また、IL-4はIL-31の作用を増強することも報告されている。

抗体薬がサイトカインを抑制

 ADに対し古くから行われているステロイドによる治療は、極めて強力で広く効果がある。しかし、強力であるため必要な細胞の機能まで抑制し、さまざまな副作用が発現する。また、治療を中止するとすぐに炎症反応が再発するという難点がある。その後、シクロスポリンやタクロリムスなど、より選択性が高い免疫抑制薬が開発された。しかし、これらにも副作用があるため、ガイドライン(GL)では短期間の使用にとどめることが推奨されている。

 そして近年登場したのが、サイトカインに個別に働く抗体薬である。サイトカインは細胞膜に発現する受容体に結合し、ヤヌスキナーゼ(JAK)を活性化することによって細胞内でさまざまな反応を起こす。昨年(2020年)、抗体薬バリシチニブ(商品名オルミエント)がADへの初の経口JAK阻害薬として適応追加が承認された。JAKは多くのサイトカインのシグナル伝達経路で共有されているため、それを阻害することでサイトカインの働きを幅広く抑制することが可能になる。

 同薬は細胞内で免疫を抑制しながら作用するため、高い効果が得られる一方、十分な副作用への対策が必要となる。同氏は「全ての患者ではなく重症者、難治性の状態に対して推奨される薬剤である。感染症などの合併リスクを踏まえた上で専門家が中等症以上の患者に対して用いる薬剤といえる。副作用に留意しながら適正に使うことが必要」と説明した。

通常ケア+抗体薬でしっかり治療

 秀氏は「抗体薬は高価であるため患者全員が使える治療法ではないが、中等症以上のAD患者における疾病負担は非常に大きいため、有用といえる」と述べた。アドヒアランスが高いステロイド治療でも十分なコントロールができない患者、長期的な治療により皮膚萎縮などの副作用が出ている患者なども抗体薬による治療を考慮できる。

 同氏は「外用薬の毎日の塗布は患者にとって大きな負担となり、さらに副作用、費用の負担などもある。身体的な負担が大きい患者では、ある程度費用面での負担がかかっても使用したいと考える人が少なくないと思う」と述べた。

 ADの治療目標は、GLでは「治療の最終目標は症状がないか、あっても軽微で日常生活に支障がなく薬物療法もあまり必要としない状態に到達し、それを維持すること」としている。同氏は「抗体薬の効果は大きく、早期に表れる。患者の人生のうち治療目標に到達するまでの時間をどのように使うかということも重要。患者1人1人の現状やニーズ、負担を総合的に考えて治療していくことになる。しかし、抗体薬(注射薬や経口薬)により、悪化因子への対処や外用薬などが不要になるわけではない。AD治療は、保湿などスキンケアもしっかり行うということも含めたものである必要がある」と結んだ。

(慶野 永)